第13話「煙立つほど濃厚な……」

 カレーで思い出しましたけどね。以前に、臭気判定士になるための適性試験があるってお話ししましたでしょ。それに使う試薬をちょっと嗅いでいただきましょうか。

 試薬はこの5種類でね。これが結構面白い特性があります……いや、先入観なしで嗅いでもらった方がいいんですよ。

 この『B』って試薬を嗅いでみてください。いい匂い? カレー粉みたいなニオイですか? そりゃ、いまカレーの話をしていましたからね。

 その試薬はですね、臭気判定士のテキストには『甘いこげ臭』となっているんですよ。説明するとカラメルシロップのにおいです。

 『え?』でしょ? これはどっちのニオイをよく経験しているか、それで答えがカラメルかカレーかに判断が分かれてしまう例です。

 これをね、テレビの生放送でタレントさんやアナウンサーに嗅いでもらったことがあるのですけど。見事に全員バラバラの答えでした。

 はい、これがカレーの香料に含まれていても不思議じゃありませんね。あれはものすごい種類の精油が混ざったモノですから。

 前にもお話しましたけど、香料に限らずニオイとニオイを混合すると前より弱いニオイになる現象が起こることがあります。これ、専門用語で感覚中和と呼びます。業務用消臭剤でこの効果を応用したものがあります。

 カレーだと素材のニオイがわからなくなっちゃうほど香辛料が強いですよね、あれはマスキングと呼ぶ効果です。家庭用芳香剤がその効果、強い良いニオイで悪いニオイをわからなくさせちゃう。

 ウチですか? ジャワのカロリーハーフです。昔2007年だったか『家庭用ハウスカレー復刻版』が限定販売されて、その時は近所のスーパー回って買い占めました。いや、転売なんかじゃなく……。

 知ってます? カレーのルーを代えるチャンスは人生で二回ないしは三回だそうですよ。結婚した時と、子供ができた時。あとは自炊でもしない限り、ずっと同じカレーを食べ続けなくちゃならないらしいです。

 そりゃバーモントやゴールデンが何十年も売れ続けるはずだ、一度口にしたらほぼ逃げられないんだもの。国民食と化していますが、ある意味恐ろしい食品ですよね。


 あ、面白いことを思い出しました。かき氷のシロップありますよね、『イチゴ』や『メロン』の。まあこの話はそこそこ知られているようですけど、あれを目をつぶって味見してみると面白いですよ。イチゴもメロンも区別できませんから。

 ええ百何十円とかで売られているのは香りも何もついていない、色だけが違う製品なんです。みんな色に騙されて、ありもしない香りを感じているんですよ。

 ここまでくると人間の嗅覚はいい加減なんて表現はあてはまりませんね、かなりの判断を別の感覚器で補っていると言えるかも知れません。

 かと思えば。目をつぶって鼻も塞いでスプーンにほんのちょっとの量カレーやビーフシチューをすくって口に入れるとね、これが驚いたことにカレーハヤシもホワイトシチューも区別できないそうです。味覚の方がもっと鈍い。

 私はイチゴやメロンより練乳がけが好きでした、コンデンスミルクがけ。今はどうか知りませんけど、北海道の子供は乳製品で育ちます。バターとチーズとアイス。

 バターかけ飯なんて普通にやってましたよ。炊きたてご飯にバターの固まり乗せて、溶けてご飯が黄色くなったところに醤油をちょっとだけ垂らしてかき込むの。卵かけご飯のバター版ですね。え? 気持ち悪い?

 あーた北海道馬鹿にしちゃいけませんぜ、北海道名物クロレラ納豆に白砂糖入れて練るって凄まじい食べ方があるんですから。別に甘くなりませんよ、ちゃんと醤油も入れます。そして納豆全体が真っ白に泡でふくれるまで練り上げて……だから家族で朝飯の場合はラーメン丼で納豆練ります。

 あとトマトに砂糖とか……でもこのトマトはでかくてひび割れていて、固くて口が曲がるほど酸っぱいヤツじゃないと美味しくない。青臭みが消えて意外とワル甘くない食べ方です……いまそんなトマトは作ってませんけどね。

 はい、出身は北海道ですけど……は? 「だよねー」? それは語尾が下がらない、「よ」のところだけ下がります。海岸沿い独特の浜言葉です。地元同士で話していたら、そりゃ気がつきませんよ。

 埼玉県の学校で国語の中で『埼玉訛り』についての授業をやったら、生徒が「先生、埼玉訛りなんてあるン?」と質問したそうですが。その「あるン?」という使い方が正に埼玉と言うか北関東訛りなのだそうです。

 そうじゃなくて、ラーメン? 北海道と言ったら味噌か真っ黒醤油ですが、私は濃くない醤油味が好きです。

 昔は時計台の裏手に味の華平ってラーメン屋があって、バターラーメンが名物でしたが、札幌だけあって使われるバターの量が半端じゃなかった。もやしとか炒めてスープ注いだところに市販のバターの固まりの、2センチから3センチ厚さのを入れて煮るの。

 背脂の膜ができたラーメンなんて珍しくないけど、それよりも厚いバターの乳化膜がスープの表面を覆ってる状態。同じ名前の店が今でもすすきのにあるみたいだけど、それなのかな?

 最近の好みは八王子ラーメンかな? 八王子でなく高尾の『びんびん』の薬味増しが一番好み。あそこの玉ねぎは北海道産ので非常に旨い。

 経験した中で強烈だった臭気にラーメン関係の物がありますねぇ。焦がしネギ油を作っている排気で、確か臭気濃度が40万とかじゃなかったかな……あれはもう臭気じゃなくてほとんど毒ガス、うっかり吸い込んだらむせて悶絶モノでした。


 つづく

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