第4話

「お、三沢。それに、雄二もおはようさん。どうやら、仲直りできたみたいだな」


「うん、まあね。賢一くんのおかげだよ。ホントにありがとうね」


 教室に着くと、賢一くんが真っ先に出迎えてくれた。直前まで本気でビンタしてあげようと思っていたんだけど、変に目立ちたくないので、やっぱりやめました。


「普段は寝坊や遅刻のオンパレードなのにどうしたの、賢一。雪でも降るの?」


「ヒトをサイキッカーみたいに言わないでくれよな。オレだって早起きしたくなる日だってあるんだよ。それに、今日からだろ、臨海学校の班決め!」


「臨海学校……そっか、もうそんな時期だっけ?」


 臨海学校とは、この学校の夏休み前のビッグイベントのひとつで、海の前の旅館に泊まってわちゃわちゃする課外授業のこと。昨年は海辺でスイカ割りしたっけ。


 バス遠足、臨海学校、そして夏休み。まるで夢のような幸せロードかと思いきや、それぞれのイベントのあいだには、定期テストがしっかりと宛がわれている。


「え……ひょっとして、賢一。班を決めるのが楽しみすぎて早く来ちゃったの?」


「べ、別にいいだろ。早起きは三文の徳ともいうし、健康にもいいんだからよ」


「ふふ。賢一にも子どもっぽいところがあったんだね。いつも澄ました感じだから、そんなギャップが新鮮で面白いね。でも早起きはいつしてもいいんだよ?」


 賢一くんと雄二の話を聞きながら、教室じゅうを見渡してみる。いくつかのグループがあるうちのひとつに彼女は居た。女子同士で楽しそうに談笑していたが、わたしと視線が重なると、気まずそうに目を伏せた。それからまた話し始める。


「今度は四葉とケンカでもしたのか、三沢。青春少女って感じだな」


「ほんと勘が鋭いね、賢一くんって。もしかして、シナリオライターなの?」


「どういう意味かは分からないが、こう見えてもクラスのことには敏感なんだよ。曲がりなりにも、男子の学級委員だからな。女子の学級委員に活躍されているけど」


 そういえば、そうだったっけ。どこにも出てきていない設定だから忘れていたのかもしれない。後付けのようにも思えるけど、たぶん情報の初出はここだろうな。


「それより、臨海学校についてだが、三沢も雄二も、もちろんオレと同じ班だよな? メンバーは全部で6人みたいだが、まだオレと五反田しか居なくてさ」


「ゆきも誘ったんだ? 早いね、賢一くん。わくわくが止まらないのかな~?」


「か、からかうなよ。じゃあ、三沢は楽しみじゃないんだな?」


「もちろん、楽しみだよ。だって、また海でスイカ割りができるんだもん!」


 昨年のスイカはわたしのなっちゃんアタックで割ったようなものだし、あのスイカが弾けるときの周囲の反応や楽しさは、1年経ったいまでも鮮明に覚えている。

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