幼なじみくらっしゅ!①

「次の文を英語に直せ――『わたしは2番目の女だから、あなたには愛されない』。なにこれ。教科書でなんてもの扱っているの。国土交通省はなにをしているの?」


「そういう問題が実際にあるんだから、仕方ないだろ。さっさとペンを動かせよ。それと、教科書の内容を採択するのは、国土交通省じゃなくて文部科学省な」


「うう、賢一くんが熱血過ぎてうざいよぅ。やさしい雄二に教えてもらいたかったよぅ」


「うざいとはなんだ、うざいとは。雄二は学年トップに匹敵するレベルで頭が良いが、英語の成績では俺に勝てないから休みだ。いわゆる俺のターンってやつだな」


 向かいの席で鼻息を荒くしているブラック家庭教師はさておき、視界の隅に居る雄二を見つめる。彼はわたしのベッドに寝転がって、優雅に漫画を読んでいた。


「雄二に熱い眼差しを向けているところ悪いが、そんなことをしても課題は終わらんぞ。これだけやりさえすれば、あとでいくらでも見つめ合えるんだから頑張れ」


「そ、そんなことしないよっ! ただ、雄二がごろごろしてて気持ち良さそうだなあって思っただけだし! 別に羨ましいなんて思っていないし!」


「おいおい、まだ寝足りないのかよ。Because it is the second woman,までで『わたしは2番目の女だから』だ。あとはひとりで英訳してみろ」


「あ、それなら分かりそう。『あなたには愛されない』のとこだけでしょ?」


 愛は英語でラブ。それを否定してノットラブ。文末に『あなたには』を追加。この状態で賢一くんに見せびらかしてみる。きっと、良い反応を得られるに違いない。


「ふっふっふ。賢一くん、これでどうかな?」


「Because it is the second woman, I am not loved to you. まあ、及第点だな」


「素直じゃないなあ。完璧な英文だと思うよ。ちゃんと英訳検索したし」


「実力じゃねーのかよ。及第点なのはインターネット上の誰かさんってところか」


 ともかく、これで課題はお終いだ。シャープペンシルを置いて、雄二の居るベッドへと近付く。


「ねえ、雄二。それ、面白い?」


「んー。良いんじゃないかな」


「なにその塩対応。わたしの漫画なんだけど」


 おまけに、彼が寝転がっているベッドはわたしのものだ。幼なじみといえ、まるで私物のように扱ってくるのは問題があると思う。


 枕とか毛布とか……くさくないかな? 部屋じゅうに消臭剤を散布しておけばよかったかもしれない。それより。


「もー! 課題終わったんだからかまってよー! ゆーじー!」


「ちょっ……いま良いところなんだから邪魔しないで。暇なら賢一と遊びなよ。賢一、暇そうにしているよ?」


「賢一くんはいまひとりで寂しくスマホゲームだから遊び相手としては不適切だよ。それにわたしが遊びたいのはゆーじだもん!」


「う、うざい……あっち行ってよ」


「うざいってなに? 新しい褒め言葉? うん?」


 身体を揺さぶっても、彼が持っている漫画を奪おうとしても、彼はまだわたしのベッドを占拠していた。わたしもごろごろしたいのに! なんてやつ!

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