幼なじみくらっしゅ!②
「ねえ、雄二。それ、面白い?」
「んー。良いんじゃないかな」
「なにその塩対応。わたしの漫画なんだけど」
なつのベッドで漫画を読んでいると、課題を片付け終えたなつが甘えたような声で話しかけてきた。
「もー! 課題終わったんだからかまってよー! ゆーじー!」
「ちょっ……いま良いところなんだから邪魔しないで。暇なら賢一と遊びなよ。賢一、暇そうにしているよ?」
「賢一くんはいまひとりで寂しくスマホゲームだから遊び相手としては不適切だよ。それにわたしが遊びたいのはゆーじだもん!」
横目で賢一のほうを見る。彼はスマートフォンに向かって、ひたすら指を動かしていた。アイドルのリズムゲームにハマっていると言っていたし、たぶんそれだろう。
「う、うざい……あっち行ってよ」
「うざいってなに? 新しい褒め言葉? うん?」
褒め言葉のはずがないし、猫みたいな馴れ馴れしさで鬱陶しい。漫画のストーリーがなつのうざさでまったく入ってこない。なんなんだ、このなつは。
「ねーえってばー! ゆーじー!」
「なつ、本当にうるさい! 静かに読ませてよ‼︎」
同じベッドに潜り込んできそうな少女を、腕を掴むことで静止させ、手前で引き止める。上にでも乗っかられたら、感触的な意味で困ってしまう。
「なんで? 雄二はわたしのこと、嫌いなの?」
「め、めんどくさい……なに、このメンヘラかまってちゃん。賢一みたいにスマホと遊んでなよ」
なつには悪いけど、僕はいま漫画を読むのに忙しい。僕の手のひらでは、主人公の女の子が幼馴染や同級生の男の子たちと甘酸っぱい青春ライフを送るという、少女漫画ならではの物語が展開されている。
だが、それが僕の内なる乙女心をいやらしく弄んでくる。いったい彼女は誰と結ばれるのだろう。ページをめくる手が止まらない。どうか叶わない願いだけど、幼馴染を選んでほしい。
ページをめくる。作者のあとがきが書いてあった。もう終わりか。こうしているあいだにも、なつのかまってアタックが続いているというのに。
「ねえ、なつ。この巻の続きってないの?」
「そうやって、都合の良いときだけ、わたしに話しかけてくるんだね……ほんと、わたしってみじめ」
「そんなことないよ。スマホさえ触れば賢一と仲良くゲームできたんだし、なつが僕に固執し過ぎたんだって」
「だって、わたし。ゲームあんまりしないもん。それに、雄二と遊びたかったの! なんでこんなにアピールしているのに気付かないの? バカなの?」
バカは余計じゃないのか? それなりに言い返そうとして、とたん、足がもつれる。僕はバランスを崩し、ベッドに倒れ込んだ。なつを巻き込んで。
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