第30話

「じゃあ、オレたちはそろそろ帰るからな。五反田……明日はちゃんと来いよ」


「ええ、もちろんよ。さすがに二日連続であなたたちにプリントを届けさせる訳にはいかないもの。それに、家に居たって特別にやることもないしね」


 それなら良かった。今日の朝のホームルームで、五反田さんが風邪を引いて休むなんて聞いたから、何か無理をしたんじゃないかと心配していたのだ。


 だけど実際には風邪など引いておらず、むしろ普段通りの調子で安心したというか、杞憂で済んだというか。とにかく大事に至らなくて良かったなと思った。


「まったく。ゆきほどの優等生ちゃんがずる休みなんて感心しないよぅ。いったい何があったの? なつお姉ちゃんに言ってごらんなさいよっ!」


「あたしより小さいあなたが、お姉さんだなんて笑わせるじゃない……ふふ。空気を読まないようで誠に申し訳ないのだけれど、ずる休みには特に理由はないわよ」


「小さいって言わないでよぅ。これでもクラスでは平均身長なんだから! っていうかわたしって、ゆきに勝てる要素ひとつもなくない? ぜんぶ負け越しなんだけど……」


 なつはそう言って、目線を落として自分の胸に両手を当てる。それからゆっくりと五反田さんを見つめ、小さくため息を吐いた。意味が分からない。


 でも、そのときなんだか、僕の頭の裏側に電気が走ったような痛みがした。五反田さんと、この痛みに何か関係性でもあるのだろうか。これも意味が分からない。

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