第31話
「そんなことはないと思うけれど……そうよね、弐宮くん?」
「え……あ、うん。そうだよ」
まさかここで話を振られるとは思っていなかっただけに、反応がつい遅れてしまった。なつが五反田さんに勝てるところ……というか、負けている部分なんて、どこにあるというのだろうか。
みんな違って、みんな良い。昔の詩人のような格言が頭に浮かぶ。それではダメなのだろうか。二番でも良い。今度は政治家みたいな文章を思い付いてしまった。
「ねえ、雄二。なんで、ちょっとだけ考える時間があったの……? やっぱり雄二も、わたしが負け属性持ちのマイナス女だって言いたいの?」
「そんなことはないよ、決して。なつにマイナスなところなんてないし、もちろん五反田さんにもないんじゃないかな? だってふたりとも、そのままでも充分に魅力的じゃないか!」
これでこの話はお終いだ。コンプレックスは誰にでもあるものだし、それを誰かが面白おかしく否定していい訳がない。まったく、自分ながら変なところで熱くなるな、と内心で自虐的に微笑む。
なにより僕は、他人の悪いところを悪いと言えるやさしさを持っていない。だからきっと、ストレートではなく遠回しにしか注意することができないのだろう。
「ゆ、雄二。それって、うう……」
「えっと……つまり、そういうことでいいのかしら?」
「……うん? どうしたの、ふたりとも。顔が赤いよ?」
どちらかといえば、涼しい気温だと思うけど。それになんだか、僕とそれ以外で温度差がある気がする。山の頂上で温かいココアでも飲んでいる気分だ。
「お見事ですね、弐宮さま。あっぱれです」
「おお、さすがは雄二だな。オレには真似できない芸当だよ。たぶんこうやって、あいつらは無意識のうちに堕ちていくんだろうな」
「……え、なにが?」
まったく話の方向が見えない。何がどうなって、そうなっているのだろうか。なつや五反田さんの反応について男性陣は何も教えてくれないし、困り果てた。
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