第28話

「ふたりの和解が済んだところで、さっそく本題に入らせてもらうぞ」


 そう言って賢一は、鞄のなかから紙が数枚入った透明なファイルを取り出し、それを五反田さんに手渡した。怪訝そうな顔をして彼女はそれを受け取り、首を傾げる。


「何よ、これ?」


「お前が今日休んだぶんのプリントだよ。明日出さないといけない宿題もあるからな」


 そういえば僕たちは、五反田さんにプリントを届けに来ていたんだった。あまりにも記憶が飛んだりと、ここに至るまでに紆余曲折し過ぎていて、ピンと来なかった。


「あら、わざわざありがとう。今日ここに来たのってもしかして、これが用件?」


「うん、そうだよぅ。七草先生にゆきの家の住所を教えてもらったんだ♪ でもまさか、ゆきがこんな大きなお屋敷に住んでいたとはねっ」


 それには賢一ではなく、発案者のなつが答えた。先ほどからひと言も喋っていなかったから具合でも悪いのかなと思っていたけど、杞憂だったらしい。良かった。


「お屋敷ってほどじゃないわよ。ただ細かいところまで和風ってだけでしょう?」


「そんなことないよぅ。ここがお屋敷だってことには、もっと胸を張っていいんだよぅ。現実的な意味で張られたら、わたしの劣等感が爆発しちゃうからやめてね」


「そうね。あなたの場合だと、たとえ張ったとしても、あたしには到底敵わないものね?」


 女の子ふたりは謎の会話をして盛り上がっている。僕にはその意味が分からなったが、賢一の方に視線で助けを求めようとしたら、代わりに苦笑いが返ってきた。


 ハテナが量産されただけで、けっきょく意味が分からなかったので、廿六木さんにもふたりの会話の真意を聞こうとしたけど、僕が声を掛けるよりも先に、


「お嬢さま。それから、三沢さま。どうやらわたくしのお説教が足りないようですね。あれほど、そういった発言は慎むように、と仰ったはずですがね」


 と、ふたりの盛り上がりに水を差して終わらせてしまった。廿六木さんに、とても訊ける雰囲気ではないので、諦めることにした。きっと良くない話だったのだろう。

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