第27話
「……じゃあ、ほら。五反田。とりあえず雄二に言わないといけないことがあるんじゃないか?」
「五反田さんが、僕に?」
妙な緊張感が走る。なつも賢一も、廿六木さんでさえもが、僕と五反田さんを見ている。これから僕は五反田さんに何を言われてしまうのだろう。冷や汗が額に滲む。
五反田さんは伏し目がちに僕の近くまでやってきて、僕の手を取る。少しだけ目が合って、瞳が潤んでいたことを知る。普段の彼女とは思えないほどの、か細い声だった。
「あの、弐宮くん。その……あたしは壱河くんに言われるまで、あなたを苦しめていたことに気付かなかったの。だから、ごめんなさい。嫌だったでしょう?」
五反田さんが僕を苦しめた? いったい、何のことだろうか。まったく記憶にない。学校でのことを言っているのだとしたら、それは大きな誤りだと言える。
少なくとも僕は、五反田さんと居て嫌だと思ったことはない。ビンタゲームと称して、理不尽に殴られたこともあるにはあるけど、それは今ではある意味思い出として、記憶に残っている。
「そんな……五反田さんは何も悪いことなんかしていないじゃないか。むしろ謝らなくちゃいけないのは、僕のほうだよ。いつも迷惑ばかりかけちゃってさ」
五反田さんにはお世話になってばかりだ。図書委員の仕事で分からないことがあったら彼女に訊いていたし、なつたちの騒動のときなんて五反田さんが居なかったら僕は何もできなかったのだから。
「迷惑だなんて思ったことは一度もないわよ。だから、弐宮くん。顔を上げて頂戴」
「五反田さん……!」
僕が顔を上げると、彼女の潤んだ瞳はとても澄んでいて、雨上がりの空みたいに晴れやかだった。そこにはいっさいの悲しみはない。良かった。いつもの五反田さんだ。
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