第18話

「この部屋って、本当にゆきの部屋?」


「そうだけれど……何か変なところでもあったかしら?」


「ううん。そういう訳じゃないんだけど、ちょっと意外かなって」


 この和風な家だから普段のゆきのイメージ的に、もっとシンプルな部屋かと思っていたけど、家具の至る所に可愛らしいお人形さんが並べてあって、微笑ましかった。


 妹ちゃんがいると聞いていたこともあって、最初は彼女の部屋なのかなと疑ってもいた。それを聞くのは少し失礼な気がしたから、さすがにやめておいた。


「初めてあたしの家に来る人はみんなそう言うわね……何が意外なのかしら?」


 まさかの自覚なし。ということはみんな、ゆきのファンシーな趣味を黙認しているということなのかもしれない。ここまで純粋な人が周りに居たなんて。


「……あ、これ」


 規則的に並んだ人形のひとつを見て、思わず声が出てしまった。とある雑貨店でしか取り扱っていないもので、一部の女子にものすごく愛されているらしい。


「あら、トミー高田がどうかしたの? もしかして、なつもトミラーなの⁉︎」


 音沙汰もなく突然ゆきが声を荒げたので、心臓が飛び出しそうになった。トミー高田という、うさぎの人形だ。思い出した、トミー高田だ。


 うさぎなのに変な名前だから、覚えていて当たり前なはずなのに忘れていたのは、わたしがとっくに、そういうのを卒業しているからだと思う。


「えっと、トミラーってなあに?」


「トミー高田のファンの総称だけれど……知らないってことはそうじゃなかったのね。ごめんなさい、つい同志に会えたかと思って興奮しちゃったわ」


 今日に限ってのことだとは思うけど、ゆきはずっと興奮しかしていない気がする。さすがに口に出すのはやめておく。こんな形で友だちを失いたくはない。


 とんでもない変態さんだ。これは早急になんとかしなければ。とりあえず廿六木さんにこのことを伝えよう。そうしなかったらたぶん、将来的にゆきは女囚になる。

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