第7話
「あっ……」
「どうした、雄二?」
不意に尿意がやってきた。むしろ喉が渇いていたくせに、緊張とは嘘が吐けないらしい。
「ちょっと、トイレに行ってくるよ」
「トイレって、お前。場所は分かるのか?」
「もちろん。さっきトイレらしい場所を見つけておいたんだ。だからたぶん、大丈夫」
確証はないけれど、仮に迷ってしまっても探索してしまえばいい。他人の家を物色するのは抵抗があるけど、楽しそうにしているふたりに水を差すのも如何なものか。
賢一に小さく手を振り、僕は静かに居間から出ていく。廊下に出ると時計の音だけが虚しく響いていた。なんだか取り残されたみたいに、ひたすらに悲しい時間だった。
「さて、トイレはどこかな?」
できるなら迷わずにまっすぐトイレへ辿り着きたい。今すぐ漏れるという訳ではないけれど、ため息は誰にも聞かれたくない。
壁伝いに歩いていくと、その途中で微かに開いているドアがあった。障子や襖ではなく、ドア。
「ここがきっと、トイレだね」
障子や襖で仕切られているトイレなんて聞いたことがない。いくら屋敷だからって、プライベートな部分を薄いもので隔てるはずがない。
「じゃあ、五反田さん。トイレ借りるね」
胸のなかだけで呟いて、僕はそのドアをゆっくり開けた。すると一瞬で、視界にとんでもないものが飛び込んできた。
「……あら、弐宮くん? どうして、ここに?」
ドアの奥には、なぜか五反田さんが居た。でもそれは、ここが五反田家だから当然なのだ。問題はそれではない。
「あ、ああ……」
僕が入った部屋はトイレではなかった。そのことに僕は、入る前に気付くべきだったのだ。
そこは端的に言って、脱衣場だった。浴室らしき磨りガラスの引き戸が部屋の奥にあるし、五反田さんの近くには洗面台や洗濯機が見える。
そして、問題なのは彼女の格好だ。なんと、下着姿だった。薄ピンク色の、大胆な下着。なつも言っていたように、そこには確かに、たわわな果実が実っていた。
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