第5話

「なるほど。あなたの話を要約すると、親友に幼馴染を寝取られたと。そういうことでいいわよね?」


「ぜんぜん良くないよ! オブラートに包んだのに台なしだよ!!」


 せっかく、濃厚なところを薄めて話したのに。彼女の推理のおかげでぜんぶ無駄になってしまった。嘘を吐いて話したのに、見破られた個所もあったし。


「良いじゃない、別に。ここにはあたしとあなたしか居ないんだし」


「それはそうだけど……でもこれって意外とデリケートな話題な訳で」


「デリケートねえ。あなたは家政婦みたいな覗きをしていただけなのに?」


 それを言われると、些か心にクるものがある。疵口に塩を塗られているのと同じくらい辛い。五反田さんの言葉だからまだ、致命傷の一歩手前で済んでいるけど。


「それで、親友と幼馴染とは縁を切ったの? 入学早々に寝取られたなら、まだ青春の切符取りは間に合うわよ。女は星の数ほど居るというしね」


「縁か……その発想はなかったな」


 五反田さんなりに僕を励ましてくれたのだろうか。今はそのやさしさが身に沁みる。だとしても僕は別に失恋した訳ではないのだけど、この際彼女のやさしさに甘えておくことにする。


「それに、ほら。あなたにはあたしが居るじゃない」


「冗談でもそう言ってくれてうれしいよ、ありがとう。五反田さん」


「冗談……まあいいわ。この神聖な場所で、ため息を吐いてほしくないもの」


 冗談の延長線上でもまだ僕に優しくしてくれる彼女には、とても感謝している。クラスメイトという以外に同じ図書委員という関係しかない僕に、ここまでやさしくしてくれる女の子は類を見ない。

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