第31話 秘匿の存在

「アマギキさん、それではこの子の事、リフィアの事をお願いします。」

「任されました。しかし、転移魔方陣とやらを設置したんです。いつでも会いに来ても構いませんからね?」


 リフィアとアリスによって名付けられたドリアードは、天樹姫のもとに預けられることとなった。芽吹き成長したと言っても、土の好みが変わったわけでも他の土でも育てられるようになったわけではない。仮にこの地の土を持って帰り植木鉢で育てようとしても、土の栄養を吸いつくしてしまえばすぐに衰弱してしまうのだ。

 それに天樹姫の言ったように転移魔方陣があればすぐに神社へ転移することが可能なのだ。であれば、過ごしやすい環境であるこの地に残した方が、アリスとしても安心できるという訳だ。


「おきゃあひゃま、まちゃあへるちょきをおみゃちしちぇおりまひゅ!」

「はい!貴女もアマギキさんの言うことをよく聞くのですよ?」


 まるで親子のような会話に一同は顔を綻ばせた。特にアリスの苦悩を知っていrのだから猶更だ。

 そんな中、リディリが何か思い出したかのようにリフィアを注視していると、不意に声をあげた。


「はぁっ!?」

「うん?どうしたんだい、リディリ。」

「そ、そのリフィアの種族が……ドリアードじゃなくて世界樹妖精ユグドラシル・ドライアドになってるんだが?」


 額に冷や汗を浮かべたリディリのその言葉に殆どの者が首を傾げたが、ただ1人ジークルトだけが顔色を変えた。

 ユグドラシルという言葉に聞き覚えのあった天樹姫はあぁ、そんなものあったなぁとポンと手を打った。


「リディリ、それは確かか?」

「リフィアがもう少し成長していたのであれば、鑑定を阻害されていたかもしれないが、バッチリ見えたよ……これは、うん。」

「そうだな、ここに残して正解かな。皆!アマギキさんの事もだが、このリフィアの事も絶対に口外するな。これは王命だ。」


 何故いきなりこのようなことを言い出すのか理解はできないが、ジークルトが冗談で王命を出すわけがないと知っている全員。グライアとマハータとリディリは瞬時に跪き、アリスも頷きジークルトの言葉に了解を示す。


世界樹ユグドラシルですか。この世界にも存在するんですね。」

「も?アマギキさんの世界にも世界樹が?」

「北欧神様たちの管轄ですから詳しくは知りませんよ?ですがまぁ、同じ名前の別のものという可能性は高いですが。」

「そうか。いや、こちらの世界でも世界樹は伝説の樹と呼ばれていてね。その朝露はあらゆる怪我を癒し、その葉は死者の命を死神から奪い返し、枝はどんな宝石にも勝る輝きを放ち実は喰らったものを生まれ変わらせるとまで言われているんだ。」


 ジークルトの説明に天樹姫は、元の世界の世界樹とこちらの世界の世界樹は全く違う存在だと断定した。それどころか、彼女の脳裏によぎったのはかの有名なゲームでの世界樹の葉と雫というアイテムと竹取の物語に出てくる蓬莱の玉の枝だった。


「なるほど。リフィアの種族が世界樹妖精だから秘匿というのはその伝説の存在に近しい魔物だからですか?」

「そうとしか思えないんだよ。……ちなみにリフィア、世界樹のことは分かるかい?」

「にゃんちょなくでしゅが……」

「なんとなくだけでも彼女を巡って多くの血が流れてしまうのは明らかだ。彼女の存在そのものが伝説の証明なのだからね。」

「そうですか。ま、私としては変わらずこの子を預かるだけですからね。そもそも、そんなことをしようとする輩はこの領域には入れませんし。」

「それは頼もしいね。よろしく頼むよ、アマギキさん。」



 その後魔王一行は転移魔方陣を使用し、帰っていった。アリスはリフィアと別れるのが惜しみ、リディリは研究し足りずに帰るのを惜しんだが、それぞれジークルトとグライアによって帰された。リディリの方は多少無理やりだったが。


「さて、と。リフィア、あなたはとりあえず流暢に喋られるようにしませんとね?」

「ひゃい!おきゃあひゃまともっちょきゃいわぢぇきるひょうにぎゃんばります!」


 両手をガッツポーズして意欲を示すリフィアに天樹姫は微笑みその頭を撫でる。そして、少し彼女の頭に干渉した。

 別に頭の中を弄ろうとしたわけではないただの興味本位だ。

 知りたいことを調べ終わると、リフィアの頭から手を放しある方向に視線を向ける。


「わがきゃみ?」

「――いえ、何でもありませんよ。さて発声練習から行きましょうか。」

「ひゃい!」


(そうですか。世界樹は空にあるんですねぇ……気が向いたら行ってみましょうかね?)

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