霊駆祓魔のドリヴンガイスト
horiko-
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「――閑野くん、はいってきなさい」
担任に呼ばれてオレは教室の引戸を開けた。
ガタガタッと数人が椅子から腰を浮かしかけた。ぎょっとした顔をしてオレを見つめる者たちは優秀な退魔師の卵たちだ。
オレは笑顔で軽く会釈する。
彼らとは仲良くさせてもらいたい。まずは、第一印象が良くしていかないとな。
ここは
退魔師を養成する専門高等学校だ。
本来ならオレみたいな一般人が入学する学校じゃないけど、とある理由から入学を特別に認めてもらえた。
高校生最後の年、高校三年生。
言葉にすると感慨深いな。こうしてこの場に立っていることを想像もしていなかったし、いまも信じがたい気持ちがある。
オレは教室の視線を一身に浴びながら教壇の前に立つ。
自己紹介を頭でさっくりとまとめると口を開いた。
「
そこで言葉を置き、教室を見渡した。
さて、ここからが大事だ。
初対面の印象がこれからの高校生活を左右すると言っても言いすぎじゃないだろう。ここで印象付けたい。
そのためにはオレの決意を語る必要があるだろう。
「オレはある悪霊を退治するためにここに来た」
オレは共に戦ってくれる退魔師を集めるために神水流高校へと入学した。悪霊をいっしょに退治してくれる仲間を求めてやってきたのだ。
「見ての通りオレは退魔師じゃない。悪霊は倒せない。だが、ここへ来る前はスタントドライバーの訓練生だった。
しんと静まり返った教室で挨拶を終えた。
せめてまばらな拍手くらい欲しいな。欠片も歓迎されていないことが丸わかりである。
生徒たちは互いに顔を見合わせて、ありえない、とか、信じられん、とか、聞き捨てならないことをひそひそと話し合っている。
「あなた、どういうつもり?」
そして、一人の女生徒が腕組みをしたまま尋ねてきた。
彼女は険しい表情でオレを見つめている。
質問だろうか。いいぞ、カワイイ娘からの質問は大歓迎だ。
さぁ、先生。彼女を指名してやってくれ。
ちらりと窓際の担任を見やる。
が、なんということか。
担任は窓際の椅子に座って眠りこけていた。いくら陽気な朝だとはいえ教師として問題だろ。
つーか、どうするんだこの状況。転入生がこのまま指揮っていいものかわからないが、女生徒をそのままにしておくわけにもいかない。
「……なにか、質問か?」
「そうよ」
「そうか、何でも聞いてくれ。スリーサイズは秘密だけどな」
「……ちっ」
オレのセクシーなギャグは冷たい舌打ちに黙らされた。
女生徒はじーっとオレを上から下まで穴が開くほど眺める。
他の生徒たちも女生徒が何を聞いてくれるのかと期待した視線を向けている。
たっぷりと時間を置いて女子徒は口を開いた。
「まさかとは思うけど。――あなた、幽霊じゃないの?」
良い視点だ。だが、残念。もう一声欲しかった。
「惜しいな。オレは、
言葉をつづける次の瞬間、空気が変わった。
教室の生徒たちが椅子を蹴倒して立ちあがった。その手には霊符やら式神やら思い思いの武器が握られている。
「……こいつ、やっぱり悪霊だ!」
「逃がすな! 倒すんだ!!!」
制止する間もない。
誰が投げたか墨字の呪文が書かれた霊符が飛んで胸元に張りついた。続けて弧を描いて飛んできた折鶴が頬をついばんでくる。
「おい、やめ――」
折鶴がうっとうしいので掴んで投げ捨てる。ついでに張りついた霊符を剥がして破り捨てた。
そして、両手をホールドアップ。
「まてまて、ちょっと待てよ!」
「浄化します!」
教室の隅に和弓を引き絞る女生徒の姿があった。ギリギリギリッとしなる音が聞こえてきたかと思うと、鋭い風切り音がなった。
鏃は眉間目掛けて一直線。
「ぅおい!? だから、やめろっつーの!」
オレは飛んできた矢を片手で弾き飛ばす。白い電光が迸り、矢が粉々に砕け散る。
「化け物が! 成仏せよ!」
教室の最前列に居た大柄な男生徒が金棒のように太い木刀を振りかぶっていた。
おいおいおい、そんなもので殴られたら一般人なら頭をカチ割られてるぞ。というか、持ち歩いていたら職務質問されてもおかしくない。
なんて考えているうちに避けられなかった。
オレは振り下ろされた木刀を頭に喰らった。
脳天に直撃した木刀はささらのようになってはじけ飛ぶ。そして――。
「ぐわぁぁぁぁぁ――!!!」
大柄な男生徒は絶叫を上げて吹き飛ぶ。そのまま背後にいた生徒をなぎ倒しながら教室の壁に激突した。
一瞬にして教室が静まり返る。
「この――! 覚悟なさい!」
オレに質問をしてきた女生徒は
いやはや、ここの退魔師はいろんな武器を持っているな。
なんて言っている場合じゃない。
オレは
「落ち着け! オレは何もしてないだろーが! ……不可抗力だ」
こちらの対峙を尻目に数人の女生徒が大柄な男生徒に駆け寄る。
大柄な男生徒は白目をむいて口からカニのように泡を吹いている。
転入早々、いきなり退学になりそうな事案発生だ。
悲しいかな。いっしょに悪霊退治をしてほしいだけなのに、悪霊と退魔師のボディランゲージはいつも戦いからはじまる。除霊する側とされる側という実に一方通行の間柄だ。
とは言え、退魔師ならば悪霊をよく知る存在。いずれわかりあえるはず。
「ええと、なんだ……。オレは
オレは木刀の破片を頭から払い落としながら努めて明るい声色で宣言した。
一呼吸おいて、
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