第46話 ドロップスカイ
翌日。
俺はまだ病院にいた。
左肘、背、腹、その他諸々の外傷と右手の骨折はほぼ完治したが、『回復魔法』による疲労から、もう一日安静にしているようにとのことだ。
ゴロゴロして過ごすのは望むところだが、慣れない環境のせいか病院にいると妙に落ち着かない。
できれば、オルガの宿に戻ってそこでのんびりしたかった。
「……暇だ」
おまけに、病室には暇を潰せるものもない。
午前中の間は、オルガにジェニーとメシュが見舞いに来てくれたおかげで退屈凌ぎができたのだが、昼過ぎには帰ってしまった。
マリンが精密検査を受けている最中なこともあり本当に暇だった。
寝ることトイレ以外に、俺ができることは、ラジオのつまみをグルグル回すことだけだった。
『ザザザザづいてのお便りはーお茶の間プリンさんからでザザザザザバミューダ港近くの入り江ね、ウワーってでっかい魚の影がねザザザザありがた迷惑なことに洋楽もほんザザザザ』
FMと表記されているつまみを回す度、いろんな局に繋がるが、興味を惹く内容がない。
『ザザザテルさん、昨日西区で起きた騒動知ってます?』
西区? 俺が住んでる東区から反対側の街か?
つまみを回していた手が止まり、テンポの良い二人の男の会話に集中する。
『ドロップスカイの件ですよね?』
『はい』
『その話なら耳に入ってますよ』
『あれ、どちら側に非があると思いました?』
『あれはねー、建設中止派が悪いですよ。確かにね、スカイドロップ建設に国家予算の4割も使っているのは問題ですよ、文句を言いたくなるのはわかります。けどね、それだけ恐ろしいってことなんですよ、魔人は。消費税増税やインフラ整備で騒ぐ余裕なんてないんです』
魔人……魔人って確か、この世界に来た最初の日にオルガが言っていたやつか。
『それにね、よりにもよって西区で防衛政策を批判するなんて、空気読めてないなんてものじゃないです。魔人たちとの戦争から25年経って、恐怖心が薄れたり、当時のことを知らない若者が増えましたが……このラジオ聞いている皆さんも今から言うことよーく聞いてくださいね。西区っていうのは25年前の魔人戦争で一番被害を受けた街なんですよ。現在でも傷跡が街の中に残ってるくらいです。コルさん、西区の端にある百本剣山って場所、何があるか知ってます?』
『はい、わかりますよ縦に50mくらい伸びてる細長い岩が何本もそびえ立っている場所ですね』
『最近、西区以外に住んでいる方々が、あれを自然の産物だと思っているらしいんですが、間違いです』
『え、違うんですか?』
『あれは、魔人が造り出した岩なんですよ』
「魔人の話は確かに大事ね」
ラジオから以外の声が、扉の方から聞こえた。
この印象に残る淡白な話し方は――やはり、朝倉か。
「でも、あなたには魔人よりも差し迫った問題があるわ」
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