第45話 フーフー
「な、何なんだって言われても、そんなもんこっちが聞きたいくらいだ」
俺とオルガは互いに黙って顔を見合う。
「あの、オルガさん。ショウマ様も意識を取り戻したばかりですし、話し合いはまた今度にしていただけませんか?」
おっ、ナイス、マリン!
「……フッ」
マリンの申し出に、オルガは小さく鼻で笑うと立ち上がる。
何がおかしいんだか。
「これは気が利いてなかったな、すまん。ナベウマ、帰る前に一つ言っておく、もう二度と今回のような真似はするな。助かったからいいものの。死ねば何もかも終わりなんだからな」
俺にとっちゃマリンがいなくなっても終わりだよ、と言ってやりたかったが、マリンの言う様に目覚めたばかりのせいか、かなり疲労感があり、早いところ話を終わらせて休みたかった。
なので「わかった」と適当に返事をした。
オルガはその返事に満足したのか、何も言うことなく病室を後にした。
「マリン、気遣ってくれてありがとな。実際すげー疲れてるから寝転がりたかったんだ」
「はい。ゆっくり横になってください」
微笑むマリンの顔を見つつ、ベッドの上に仰向けになる。
「『
「へぇ、『回復魔法』も万能じゃないんだな」
「ですから、治療も回数を分けて行うみたいです」
病室の扉が開く。
落ち着けると思ったら、今度は誰だ? と、扉の方を見るとリーが医者を連れて戻ってきた。
「渡辺はん、昼飯や!」
リーが、料理が盛り付けられた皿たちが乗っているプレートを両手で持っている。
自らの体重に対して、プレートが重いのか足元をフラつかせている。
その様子を、マリンも危ないと思ったのか、プレートを一緒になって支えた。
マリンが座る椅子の側に、小さな四角い机があって、その上にプレートが置かれる。
「渡辺さん、調子はいかがです? 食欲ありますか?」
医者が尋ねてくる。
プレート上の料理内容を確認したところ、牛乳のような味がする飲み物に、ほかほかの白米に味噌汁らしきもの、焼き魚、キャペツっぽいものをみじん切りにしたもの、あと見覚えのあるキノコが大量に盛り付けられていた。
腹がグーッっと鳴り出した。
「どうやら、食欲あるみたいですね」
俺の腹と医者の一言に、リーは吹き出しそうになる口を押さえ、マリンは後ろを向いてクスクス笑っていた。
恥ずかしい……。
「点滴外しますね」
医者が左肘の包帯を取ると、刺してあった注射を抜いた。
「よっしゃ、メシだ! ……って、そうか左手で食わなきゃいけないのか」
皿の側にはスプーンとフォークが置いてあることから、これを駆使して食えってことなんだろうけど。
左肘を軽く曲げたり伸ばしたりしてみる。
「痛みますか?」
マリンの問いかけに。
「ああ。動かせないってほどじゃないけど、チリチリ痛むな」
「んー、痛むのかー、両手がつかえんのかー、そーかそーか」
意味ありげに、リーが首を縦に何度も振り、眼鏡を光らせる。
うわ、こいつ何か企んでるぞ。
しかも眼鏡を光らせるあたり、碌なことじゃない。
「マリンちゃん、こいつにアーンしてやり」
やっぱ碌でもねぇ!
「あーん?」
マリンはきょとんと首を傾げる。
「マリンはんが、渡辺はんにご飯を食わしてやるってことや」
「それはいい考えですね!」
ま、マリンまでそんなノリノリに……。
マリンは早速、右手でスプーンを持ち、ご飯を掬う。
「あー、ご飯あっついでなぁー。ふぅふぅして冷ましてやらんと」
「はい!」
ニヤニヤしているリーに言われるがまま、マリンはスプーンの下に左手のひらを添えつつ、スプーン上のご飯をフーフーした後、そのまま俺の口へと運んでくる。
「はい、ショウマ様!」
や、ヤバイ。
心臓がめっちゃバクバク鳴ってる。
マリンのこと好きだって自覚した今は、余計に……。
うおおお、ギャルゲーマニア友達のA君! 俺はどうしたら!
俺は強く目を瞑る。
すると、友達のA君の声が聞こえてくるような気がした。
『いいんじゃね? お前が愛した女なんだろ。 なら、彼女の全てを受け入れるんだ』
導きの声に従い、俺はマリンから差し出されたご飯を咥え込んだ。
「ふふっ」
マリンは嬉しそうにしている。
全く、マリンは何とも思ってないのかよ……俺はもうご飯を味わう余裕すらないっていうのに…………マリンは俺に好意を持っているように見えるけど、それって”好き”っていうのとは違うんかな……。
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