第107話
結局、青年と合った晩は色々気になることが多すぎて部屋に戻っても寝ることが出来なかった。元々眠らなくても大丈夫な
先に顔を出したのはどちらだろうか?ほぼ同時に布団から顔を出したソアレとノティヴァンに私は微笑むような声で「おはよう」と二人に声をかけた。
「おはよう、アステル」
「おはよう。父さん」
私のかけた言葉に片やまだ寝ぼけた声で、もう片方は元気はつらつな声が返ってくる。
『何か食べるかい?』
「何でも良い~」
と適当な答えを返すノティヴァン。
「僕は軽くスープくらいで良いかな」
対して、きちんと要望を答えるソアレ。
『分かった。準備しておくから二人は着替えてて』
二人の意見をもとに石箱に向かう私の背に「了解~」「分かった」と二人の返事が投げかけられた。
石箱を開けると中には飲料水と酒、それと酒の摘まみなるようなチーズや塩気の強そうな干し肉に炒ったそら豆や細切りにした芋を上げたものくらいしか入っていなかった。ポーチの中の食材と言えば玉ねぎとジャガイモとパンいったところ。葉野菜などの色どりを添えるものはない。まあ、スープ一品くらいは作れるだろ。
ポーチから携帯コンロと鍋を取り出し、ローテーブルの上に置き、干し肉とそら豆、それから千切りにした玉ねぎ一玉と飲料水を鍋に注ぐ。数分で鍋はぐつぐつと煮えた音を立て、軽くおたまで鍋をかき混ぜると干し肉もしっかり水分を吸い戻り、玉ねぎもしんなりとしていた。塩気は干し肉で十分だろうから一つまみの胡椒で味を整える。
そろそろ火から上げても良い頃合いだ。ローテーブルの上に出しておいた鍋敷きに鍋を乗せる。次にフライパンを取り出し、薄めに切ったパンを乗せる。こんがりきつね色に焼けた所で炙ったチーズをのせて皿に移して朝食は完成した。
「お、美味そう」
着替え終えたノテイァンは目ざとくローテーブルの上の朝食に気づくとすっと席に着く。それから少し遅れてソアレも席に着くと待っていたノティヴァンが「いただきます」と言いチーズトーストに手を伸ばした。
スープをすするソアレにパンを齧るノティヴァン。それと昨日の青年のことを話そうとしている私。いつ言おうかとタイミングを計りかねている私にスープをすすりながらノティヴァンが尋ねた。
「今日の行先なんだけどさ、どこにする?」
ノティヴァンは青年のことも火の宝珠が火の神殿に安置されていることも知らない。それなのに
驚き目を丸くする私にソアレがにっこり微笑んだ。
「僕たちは誰一人として王様の言葉を信用していないよ。だって、母さんの母さん、僕のおばあちゃんがそんなことするわけないよ」
ソアレにもあのラミナの呟きが聞こえていたというよりはおそらく、バートを運んでいるときにラミナがソアレ達に話したのかもしれない。
「ラミナさん。どっかの良い所のお嬢さんだとは思ってたけど、お姫様ってのは流石に驚いたなぁ。まあ、ラミナさんのことがなくてもあの国王の言い草は信用はおけなかったけどな。
奪われたという割にはこの国は綺麗すぎる。正面切って
パンを齧りながら苦笑を浮かべるノティヴァンと目が合った。今が話すタイミングだ。
『火の神殿に行こうと思う』
「よし、行先は火の神殿だ」
言うが早いかノティヴァンは既に扉の外にいた。
『訳は聞かないんですか?』
慌ててその後を追う、私とソアレに
「アステルがそこにあるというのならそれを信じないってことの方がおかしいだろう?」
にかっと笑うとノティヴァンはそのまま足をバートの眠る部屋へと向けた。
フィーネの部屋の扉を軽く叩くと中から少し疲れた顔をしたラミナが顔を覗かせた。
『フィーネの具合はどう?』
「もう大丈夫よ」
薄く微笑む彼女の顔を見て横にいたノティヴァンも安堵の顔を見せた。
「ねえ、本当に
不安げに尋ねるラミナに私は首を横に振る。
『今はいかない』
「今は?」
はてと疑問符を浮かべながらラミナは首を傾げる。
『いずれは挨拶に行かないとね』
私のこの言葉にボンとラミナの顔が赤くなった。
「そ……そうね、お母様にもちゃんと言わないとね」
『そうだね。だから心配しないで、もう大丈夫だから』
そっとラミナを抱き寄せ、優しく頭を撫でると彼女は目を閉じ瞼を小さく振るわせながら小さく微笑んだ。
「ごめんなさい、ラミアの国のこと、私のこと黙ってて……」
『気にしてないよ。君が話したい時に話してくれれば私は良いから』
俯き小さな声で謝るラミナの頭を私は再度優しく撫でる。
暫くするとラミナは自分から離れるとにっこりといつもの朗らかな笑顔を私達に向けてくれた。
「心配かけてごめんなさいね。一緒にはいかれないけど、留守の間しっかりフィーネちゃんの面倒は見てるから」
「フィーネのことよろしくお願いします」
深く頭を下げるノティヴァンに「任せてください」とラミナは自信をもって答えた。
『それじゃあ、私達は火の神殿に行ってくるよ』
「行ってきます」
ラミナ達を部屋に残し、私とノティヴァンは青年の待つ
『ソアレはラミナ達とここで待っていてくれないか』
付いてこようとするソアレをラミナ達の元に戻そうとすると真剣な面持ちのソアレに言い返された。
「戻らないよ。父さんとノティヴァンさんだけにするとどんな無茶するか分からないからね。僕がしっかり二人を見張っておかないとね」
……全くもって言い返せない。言葉に詰まる私とノティヴァンにソアレは勝ち誇った笑みを浮かべながら言葉を続ける。
「母さんが止めないってことはそう言うことだよ」
扉の前で私達を見送るラミナの方を見ればにっこりと目の笑っていない笑みを浮かべていた。これは連れて行くのは決定事項だ。諦めて私は苦笑いを浮べるしかなかった。
『分かった。ソアレも一緒に行こう』
私の言葉にノティヴァンも苦笑いを浮べながら頷き、ソアレは嬉しそうな笑みを浮かべると
「行ってきます」
元気よくラミナに声をかけると大きく手を振り、
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