第77話

馬車に揺られる事1時間オーラほどで町の中心に在る都主の館入り口に到着した。


馬車を降りて門を潜り敷地内に踏み入れれば館の周りを円形に囲う塀の内は常冬の地であるのに緑の芝が青々と茂り、花壇には色とりどりの花が咲き誇っていた。


背の低い家が多い中、屋敷は3階建てとなっていた。家が低いのは雪の重みで潰されないためというのが一番の理由だ。


庭の様子から察するにここは雪の影響を受けないらしい。


よく屋敷の空をみると薄硝子のようなもので覆われている。これのお陰でこの館の中を温室状に保っているのか。


感心している間に気付けば私は館の応接室の椅子に座らされていた。


メイドが室内の全員分の香りの良いお茶と茶菓子を配り終え退室すると椅子に腰を下ろした都主が静かに口を開いた。


「勇者様はどれほどこの国ついてご存知ですか?」


「常冬で魔導具開発が盛んな国としか…」


都主の問いに勇者は極ありふれた答えを返した。


「やはり、内情は伏せられているのですね」


はあと深く息を吐き組んだ指を額に当て暫しの沈黙の後、都主は語りだした。


「あれは魔王の脅威が去り、日常が戻り始めた8年前のことでした。突如、現れた亡者アンデッドの軍勢により王都は侵略されそこに住む多くの人の命が奪われました」


「そんなことが」勇者が声を上げ、声を上げなかったものも驚きで目を丸くしていた。話は尚も続く。


「こんな重要なことが何故、他国に広まっていないか…。もし、国の中枢が崩壊していたら他国ならどうします?選択肢は2つ。王家の人間が生きていたなら救援をなければ属国にのどちらかでしょう。亡者アンデッドの都を制した者が実質この国の支配者になるのです。ですから、この国を残すためにはこのことは他国に知られてはならないのです」


「貿易があるなら隠し通すのは難しいでしょう?」


人が行き交うならその口に戸は立てられない。どこからか国の一大事の情報は漏れているだろう。勇者の問いに都主は頷くと


「漏れているでしょうね。だから、私達は言うのです。末姫様がお戻りになられた時が奪還の時だと。末姫様の訃報だけはどこにも流れていません。きっと、今もどこかで生きてらっしゃるはずです」


手を組み語る都主の姿はまるで祈りを捧げているようでもあった。


亡者アンデッドの軍勢は王都を占拠した後、他の都には進軍しなかったのですか?」


勇者が問うと都主は首を横に振る。


「勿論、西都、東都共に進軍してきました。私達東都の民は北に獣人の国を興し北都と友好の在る獣王様に庇護を求めました。あの方は魔物でありながら庇護を求めるものなら種族を問わず護り、攻め入るものには容赦しない気高き王です。

現在は王都と東都を遮るように作られた獣王の砦で亡者アンデッドの進軍を防いでくださっています。

西都は近隣のドワーフの国に助けを求めたとは聞いておりますが、それから先の連絡はありません。これが、今の地の国の内情です」


都主の話を聞き終えると勇者はこれからの方針を語った。


「この国で俺達がやらなければならないのは末姫を見つけ王都を奪還し地の宝珠を譲ってもらうことだな」


例え、王女が見つからずとも国でなく勇者一個人が亡者アンデッドの都を制圧したなら、王都は地の国の民の元に戻る。頼まれずとも勇者はそれを理解していた。


私達は互いに目線を合わせ全員頷き返す。自然とその中に決意に満ちたアイナの視線も混じっていた。




「東の都、ならびに地の国の民として感謝いたします。ささやかなお礼ですが此方でお食事をご用意いたします。皆様、船旅でお疲れでしょう。暫く休まれてから出立なさってはいかがでしょうか?」


都主の申し出を勇者は


「お心遣い感謝します。しかし、この国の危機、一刻も早く俺達は王都に向かいます」


と丁重に断った。その言葉に都主は感涙の涙を浮べていた。


「ありがとうございます勇者様。しかしながら王都へ続く転移陣は今は使えません。一番最寄は獣王の砦になりますので皆様をそちらまで送らせて頂きます」


こうして私達は最前線の地、獣王の砦へ送られていった。

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