第68話
チリンチリンと呼び鈴の音共に朝から喧しい声が家の周りに響き渡る。
「迎えに来たぞ~!」
声の主はまごうことなき今代の勇者。
『大きい声で呼ばなくても分かってます』
身支度を整えて扉を開くとこちらも身支度を整えた勇者と巨漢の白銀鎧のバートの姿があった。
私達一家の準備が出来ていることを確認すると勇者は
「じゃ、準備は良いみたいだから、王宮で王様に挨拶してから行くか」
と御者が待機した馬車へ向かって歩き出した。私達も勇者の後を追い馬車に乗り込んだ。
馬車に揺られること2
「陛下がお待ちです。皆様此方に」
老執事に促され私達は玉座のある大広間へと向かった。
大広間の玉座には既に国王を中心に左隣に王妃、右隣にはクラジオ王子その隣にリーリエ、デイジーと続いて着席していた。
勇者とバートが一列前に私達はその1歩後ろに一列に並び跪いた。
「面を上げよ」
シンと静まり返った大広間に国王の威厳のある声が響く。
勇者が頭を上げると一拍置いてバートが続き私達一家も頭を上げた。
「本日は、魔王討伐のため旅立つことを陛下にご報告に参りました」
普段飄々としてる勇者の姿からは想像出来ないような謹厳な姿勢に私は驚きを隠せなかった。
勇者の家系として育てられてと言うのは伊達ではなかったのだなぁ。
勇者の言葉に国王は深く頷くと
「まだ、魔王が動き出しと言う報告は無いが、各国で魔物の動きが活発になってきているという報告はある。動き出してからでは遅い。即刻対処にあたれ」
「承知いたしました」
恭しく勇者は答え頷く。
「それでは勇者にこの宝珠を授けよう」
そう言って国王は老執事に両手の平に納まるほどの美しい装飾のされた小箱を持ってこさせるとその蓋を開けると中から澄んだ瑠璃色の宝珠が姿を覗かせた。国王は宝珠を手に取りとるとそっと勇者の手に握ぎらせた。
「しかとお預かりしました」
跪いたまま宝珠を受け取った勇者は懐から傍目から見ても丈夫そうな小箱を取り出すと宝珠をそれに収めた。
そんな勇者に国王は少しばかり驚いたような声で話しかけた。
「お前の仲間がよもやアステル達だったとはな」
「意外でしたか?」
国王に勇者は問いかける。暫く王は考え込むと口を開き、
「意外でもあり、運命だったのかも知れぬな」
「そうかもしれませんね」
微笑み、勇者は立ち上がり国王に一礼すると
「今代風の国の勇者ノティヴァン、出立いたします」
私達も立ち上がり国王に一礼し、踵を返し退室しようとする勇者に続くと
「待って!」
背後から私達を引き止める声がかかった。声の主は振り返らなくても分かる。分かるからこそ振り返れなかった。振り返れば決意が鈍ってしまう。
必死に耐えるソアレとキキの姿は見ているこちらまで悲しくなる。
「お父ちゃん、お母ちゃん」
「父さん、母さん」
涙を溜め込んだ瞳でソアレとキキが私とラミナを見つめ訴えてくる。
そんな2人にラミナは優しく2人の目元を拭い
「行ってらっしゃい」
と微笑むと2人はデイジーの元に駆け寄った。
「「デイジー」」
「ソアレ、キキ」
三人はしっかり抱き合い、涙を流しながらも別れの言葉を紡いでいった。
「行って来るね。僕がいない間の学年一位はデイジーだね」
「そう、おっしゃるなら、帰ってきたら取り返して御覧なさいな。必ず、帰ってきてくださいよ」
「行って来るわ。帰ったら、また、一緒にケーキ食べに行こうや」
「勿論ですわ。帰ってくるまでに新作も調べておきますからね。だから、絶対帰ってきてくださいね」
硬く互いの手を握り、3人は微笑み合うと固く結んでいた手を開き手を振り分かれていった。
『挨拶はもう良いのか?』
戻ってきた二人に尋ねれば
「「もう、大丈夫」」
『そうか』
笑顔の2人の頭を撫でていると
「先生!気をつけていってらっしゃいませ」
静かな大広間にリーリエの声が響く。先生…、教えている間は一度も呼んだことなかったのにな。思わず苦笑がもれる。
『私が戻るまで稽古はサボらないように。戻ったら手合わせをしよう』
振り返りリーリーの瞳を真っ直ぐ見つめ返すと
「はい!ご指導のほどよろしくお願いします」
リーリエも真摯な瞳で私を見つめ返した。
隣に控えたデイジーと視線が合うと「お兄様たちの旅のご無事をお祈り申し上げます」と微笑み私達に手を振った。
こうして王達との謁見を終え、宝珠を授かった勇者と私達は次なる宝珠のある国、土の国へと渡るために水の国、北都へ向かった。
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