第69話
大広間を出た私達を待っていたのは扉の端に控えた老執事だった。
「ご案内致します」
老執事の案内で通された部屋は壁も床も一面白く塗られ、天井の天窓のから中央の転移陣に光の差す転移の間だった。
「皆様のお越しをお待ちしておりました」
部屋と同じ白い踝まである長いローブを身にまとい銀の杖を握った深海のような青い髪を腰まで伸ばした妙齢の女性魔術師が微笑を浮かべならがら深く頭を下げた。
転移陣の上に私達家族と勇者達が収まると
「皆様、準備は宜しいでしょうか?」
「勿論」
「皆様の旅の安全のお祈りしております。かのもの達を北の都へと誘いたまえ、転移陣起動」
元気良く勇者が答え頷き、女性も微笑み頷き返すと転移陣を起動させた。
転移陣が起動すると眩い光で視界は白で埋め尽くされた。
徐々に色彩が戻り、あたりの物が確認で出来るようになると私達の前には質の良さそうな上着を羽織った男性を中心に数人のメイド達が横一列に並んだ姿があった。
「勇者様のお越しを我ら一同お待ちしておりました。私、この北都を治めておりますヴォリアポリと申します。明日の出立まで此方でお過ごしください」
ヴォリアポリが一礼すると、その両隣に控えていた氷のように澄んだ水色の瞳に飴色の髪を結い首元で団子にまとめた顔立ちが瓜二つのメイド達が深々と一礼すると自身達の名を告げた。
向かって右が
「私はエマと申します」
左が
「私はアメリと申します」
「「明日の出立まで私達が勇者様方のお世話をいたします。なんなりとお申し出くださいませ」」
1人が話しているかのように彼女たちの声は揃っていた。
「エマ、アメリ、勇者様方を部屋に案内してくれ」
ヴォリアポリがメイド達に命じると「畏まりました」と2人は頷くと扉を開き先だって私達を客室へと案内した。
エマに案内され通された部屋は右手に大人2人が横になっても十分な広さのある天蓋付きのベットが二つ、正面には大きな硝子扉の外にはバルコニーがあり、白レンガで作られた町並みと青く輝く海が一望出来るようになっていた。
真っ先に硝子扉を開きバルコニーに足を踏み入れたのはキキだった。
「うあー綺麗」
感嘆の声を上げ顔を綻ばせるキキの後ろからは「お姉ちゃん、待ってよ」と僅かに顔を顰めたソアレが続き、海と町並みを見たその顔は見る間に驚きに変わった。
「…凄い」
『そうだな』
呟くソアレの横に並び、私も白い建造物の屋根は鮮やかな塗料で色彩豊かに塗られた町と朝日を浴びキラキラと宝石のような輝きを放つ海を眺める。
「皆様、海は初めてですか?」
海を見てはしゃぐ私達にエマが僅かに口元を綻ばせながら尋ねた。
『ええ、初めてです。内陸育ちでなかなか海に行く機会が無かったもので』
「それでは、皆様を海にご案内いたします」
そう言う彼女の目はいつの間にか弧を描いていた。
案内してくれるのはありがたいが、今の季節は秋。やや肌寒く海水浴には適してはいない。私の心配を察してかエマが話し始める。
「ご安心ください、この北都には1年を通して海水浴を楽しめる場所がございます。あちらに見える小島の底には海底火山があり、暖かい海水が噴出しておりますのでいつでも遊泳を楽しめる施設〔パラリアの浜〕となっております」
確かに彼女の指差す先には小さな島の姿があった。
「素敵な施設があるものね。是非、案内してもらいましょ」
振り返れば、目を輝かせ満面の笑みを浮べたラミナに姿がそこにはあった。こんなに嬉しそうな彼女の顔を見るのは久しぶりだ。こんなにラミナが喜ぶならエマの提案は是非受けよう。
『案内お願いします』
私が笑顔で頼べばエマは笑顔で頷いた。
「畏まりました。では参りましょうか」
エマに促され私達は常夏の海〔パラリアの浜〕へと向かった。
都長の館の転移陣からパラリアの浜へ。
パラリアの浜の転移陣が敷かれている建物は木製のやや広めの小屋と言った作りだった。
数ある転移陣の館と同じくこの小屋のような転移陣の館にも受付嬢の姿があった。
どこの館も色は違えど館の受付嬢達は皆一様にすっぽりと身体を覆うようなローブをまとっていた。
しかし、ここの受付嬢は手足を二の腕から太腿まで大胆に露出させ身体の線がはっきりと分かる遊泳の時に着る濃い藍色の水着を身にまとい、短めの白のマントを肩から羽織っていた。
「パラリアの浜へようこそ。こちらは初めて…あら、エマさんじゃないですか」
笑顔で歓迎していた受付嬢はエマの姿を見ると一旦話すのを止めた。
「エマさんがいるなら説明は不要ですね。それでは皆さん楽しんで着てください」
「ええ、説明は私がいれば不要です。それでは皆様あちらの扉から参りましょう」
手を振る受付嬢に無愛想に頷くエマだったが口元だけは僅かに微笑んでいた。どうやら受付嬢とエマは顔見知りのようだ。
扉を潜ると正面は海辺へと続く石畳で舗装された大きな通りが敷かれ、その通りの両端には様々な店が軒を並べていた。
大通りをエマに続いて歩くラミナやソアレ、キキの額や首元に薄らと汗がにじんでいる。だいぶ薄着で着たはずなのに、心なしか私も暑さを感じる。
『エマさん、ここは北都より暑かったりしますか?』
疑問を口にすれば、即座に回答は与えられた。
「はい、暑いですよ。ここは1年を通して海水浴を楽しむ為に島全体を魔術で薄い膜の結界で覆い、地熱を逃さないで温室状にしているのです。ですので、皆あのように薄着ですごしております」
あたりを見回せば道行く人々は男性はほぼ半裸といって良い遊泳パンツ姿、女性は受付嬢と同様に大胆に肌を露出させた水着を着用して闊歩していた。
「この島では水着ですごすのが通例です。あちらの店で購入いたしましょう」
言うとエマはすたすたと一軒の衣類店へと向かって行った。
「いらっしゃいませ、おや、エマちゃん。いつも贔屓にしてくれてありがとね」
店の中から顔を出したのは眼鏡をかけ、派手な半そでシャツに膝丈のズボンをはいた穏やかそうな老店主だった。
「店主の腕が良いからです。都主様も褒めていらっしゃいました」
「それはありがたいねぇ」
笑顔の店主はエマから私達に視線を移しラミナの姿を見てほうと深くため息をついた。
「こんな別嬪さん久しぶりに見たいわい。こりゃ、うちの一番でも出さないと釣りあわんかもな」
言うと笑顔で店主は店の奥へと消えていった。
「ラミナ様のは店主がお持ちしますので、アステル様、ソアレ様、キキ様はお好きなのをお選びください」
言われてキキとソアレは「これはどうかな?」「これかわいい!」などと楽しいそうにはしゃぎながら水着を選び始めた。
「アステル様は選ばれないのですか?」
全く水着を選ぶそぶりのない私にエマは不思議そうに尋ねた。
この鎧が身体であり、中身のない私は着替えられない。正直に言えるはずもなく、困惑している私に助け舟を出したのはラミナだった。
「アステルはね生まれつき肌が弱いからあまり日にあったると火傷してしまうの。だから鎧が抜げないの。そのかわり鎧には暑さ対策の魔術が施してあるから大丈夫よ」
一瞬エマの目が大きく見開かれる。
「そのような事情があるとは知らず、申し訳ございませんでした」
元々正体がばれなければ言い訳など何でも良かったのだから気になどするわけもなく、深々と頭を下げるエマに私は気にしていない口ぶりで応えた。
『気にしてないから大丈夫ですよ。そんなことより、エマさんも水着を選んだらどうです?』
「私は…」
明らかに断ろうとしている雰囲気を出しているエマにラミが笑いかける。
「エマさんも一緒に泳ぎましょ。こういうのは多い方が楽しいわ」
「私はメイドですから…」
尚も断ろうとするエマの手をラミナは引くと
「こんなの似合うと思うの」
黒にフリルのついた可愛くもあり落ち着いた水着を服の上から当てて見せた。
「怒られそうになったら私達も一緒に謝るから、ね」
可愛くラミナにこうも言われたら断れるはずもなく、
「分かりました」
とエマは苦笑を浮べながら頷いた。
楽しそうに水着を選ぶラミナ達を見ながらふと回りにある店を見ているとある一軒の魔道具屋だろうか?そこから目が離せなくなった。
『少し、周りを見てくる。直ぐ戻るから』
一声かけて私は魔道具屋へ向かった。
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