第56話

2階にはいつの間にやら楽団や歌唱隊が入場し楽しげな雰囲気の楽曲を演奏し始め、食事を乗せたワゴンを押したメイド達が来賓たちに飲食を配り始めた。

ラミナは配られたワインを優雅に口に運び、ソアレはいつものように、キキは珍しく行儀良く配られた料理を美味しそうに食べていた。私はワインだけ受け取りグラスを手の中でさ迷わせていた。

位の高い順に来賓は名を呼ばれ、主役であるデイジーに各人が持ち寄った贈り物を手渡し、デイジーは感謝の言葉を返していた。


私達が呼ばれたのは一番最後だった。考えれば当たり前のことだ。町でちょっとばかり有名な薬師と駆け出しの冒険者がたまたま助けただけなのだから。この招待は恩賞以外の何者でもない。


名を呼ばれ、私達は玉座の前に横一列に並び傅いた。


『本日は謹んでデイジー様の御誕生日のお祝いを申し上げます』


緊張と重圧に声が震える。


「アステルお兄様、ラミナさん、ソアレ君、キキちゃん。顔を上げて」


言葉に顔を上げると花の咲いたような笑みを浮べたデイジーの姿があった。デイジーの笑顔につられてキキとソアレも満面の笑みを浮かべ


「誕生日おめでとうデイジー」


【おめでとうなんよ、デイジー】


祝いの言葉を述べると二人で抱えるほどの包みをデイジーに手渡した。


「何かしら?」


興味深げに包みを見つめるデイジーにソアレとキキは声を揃えて「【開けてみて」】と笑顔で返した。包みを開いてデイジーは可愛らしくはしゃいだ。


「まあ、可愛いうさぎさんだこと」


2人がデイジーいに贈ったのは最近町で人気の可愛らしいうさぎのぬいぐるみだった。可愛らしいうさぎのぬいぐるみに思わず頬ずりをするデイジーを周りの大人たちは微笑ましく見守っていた。


「私達からはこれを」


ソアレ達に続いてラミナはその両手で収まるほどの装飾のされた小箱を取り出しデイジーに恭しく差し出した。デイジーは小箱を受け取るり開けると驚きに目を丸くした。

そんなデイジーの姿に隣に座るリーリエも小箱を覗き込み同じように目を丸くし、その姿が気になったのか王妃までも「ちょっと宜しいかしら」と玉座から立ち小箱を覗き「まあ」と感嘆の声を上げた。


「素晴らしいものを頂戴しましたねデイジー」


王妃は優しくデイジーの頭を撫で、


「付けて見せてさし上げなさいな」


「はい。お継母かあ様」


微笑む王妃にデイジーも微笑み返し、箱の中身をそっと自身の頭の上に乗せた。

デイジーの頭上には中央に薄桃色の赤子のこぶし大の魔晶華がすえられ、その周りをそれよりも小さな宝石の花で作られた花冠はデイジにーの髪色と相まって、深い海の水面の底に咲き誇る珊瑚礁のように美しかった。


『良く似合っておられますよ』


さすがに国王の前で砕けた口調で話すわけも行かず、畏まった言い方でデイジーを褒めると笑顔で国王が私達に声をかけた。


「うむ、此度の調物、見事であった」


『お褒めにあずかり光栄の極みであります』


国王の言葉に上げた頭を再度下げる。


「此度、そなたらを招いたのはデイジーの誕生祝いもあるが、賊から姫達を救い、その願いをかなえた事に対しての褒美を取らせようと思っている。そちらの行い大儀であった。どのような褒美を望む?地位か?金銭か?」


王の問い、私はあらかじめラミナと決めていた答えを返した。


『畏れながら、私達の望むものはこの子らを王立の学校に通わせるための推薦状を所望いたします』


私の答えに国王は驚きの表情を浮べると、背後に控えていた老執事に向き直る。


「お前の言っていた通りだった」


「ですから、そう申したではありませんか」


言われた老執事は苦笑いで返した。


「本当にそれだけで良いのか?」


『それだけで十分にございます』


再度尋ねる国王に私は真っ直ぐ国王の瞳を見つめ返した。暫く国王はうーむと呻っていたが納得したのか


「あい、分かった。そのように手配しよう」


『ありがとうございます』


礼を述べる私の後ろで喜ぶラミナ達と


「デイジー、良かったわね。友人と一緒に学校に行かれるわね」


デイジーに優しく微笑む王妃の姿があった。


こうして、ソアレは無事にキキと共に王立の学校に通うことが出きる様になり、デイジーとともに勉学に励んでいった。


平和に時は流れ、気づけば魔王がこの水の国に降臨してから10年の歳月がたっていた。

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