第50話

食事が終わり全員出かける支度を終え一階に下りた。

店の仕事のあるソフィアとクックマーチとハルは店開きの準備を始め、シューリの服屋に勤めるマリーは既に家を出ていた。

環に通された鍵の1つをソフィアが扉にさし開ける。


「また、遊びにくるわね」


「いつでもいらっしゃい」


ラミナが別れの言葉を告げるとソフィアが少しばかり名残おしげな笑みで応えた。

ラミナを先頭に私が殿で扉を潜ると目の前に西都の関所が姿を現し、背後でカチャリと扉に鍵を掛ける音がした。




西都の関所の門を潜り、腕にキキとデイジーを抱き上げ、ソアレを肩車をする私とラミナ達女性陣が森に向かって街道を歩いているとリーリエがラミナに疑問を投げかけた。


「このまま進めば確かに七色湖に付くが、ピクニックという距離ではないだろう?」


リーリエの疑問はもっともだ。魔鎧の森の先にある七色湖には獣車を使って順調にいっても5イメラはかかる。朝に出て夕方に戻るなど到底無理だ。


「それは、取って置きがあるから大丈夫よ」


笑顔で答えるラミナにからくりを知らないリーリエとデイジー姉妹とメイドのポーラは首をかしげた。

街道の終わり、森に入るとラミナは鞄から長細い布を取り出すとリーリエ達に手渡し、目隠しをするように頼んだ。


「ここから先はちょっと秘密なの。良いと言うまで目隠しは取らないでね」


不安げなリーリエとポーラに対してデイジーはウキウキを隠せずはしゃいでいた。


「分かりましたわ」


元気にデイジーが答えたのを合図に祠の転移陣が発動した。





目隠しのままでは危ないと家にあった荷車にデイジー達を乗せていると、いつの間にかお気に入りのクッションを引いてちゃっかりキキも乗りこみくつろいでいた。

「お姉ちゃんが乗るならぼくも」とソアレも荷車に乗っていたが、その手にはデイジー達3人のためにクッションが握られていた。流石ソアレ、この歳で気が利くとは将来有望だな。

大人2人に子供3人が乗ったことで既に荷車は満杯になっていた。


「私は貴方と歩くわ」


微笑みラミナは荷車を引く私の手に自分の手を重ねた。




私が引く荷車が止まるとラミナがデイジー達に声をかけた。


「もう、目隠しを取っても良いわよ」


ラミナが3人に言うと、目隠しを取った3人は目の前に広がる光景に息を呑んだ。


「なんて美しいのでしょう」


私達の前には朝日を浴びて七色に輝く美しい湖が広がっていた。

荷車から最初に降りたデイジーの後をポーラとリーリエが追う。

デイジーは湖の縁に座りこみ、そっと両手で水を掬い上げると彼女の手の中の水は七色の輝きを放っていた。


「綺麗ですわね、お姉さま」


「そうだな」


振り返り、後ろに控える姉にデイジーが微笑むと、リーリエは私が出会って初めて柔らかな自然な笑みを浮べていた。




私と子供達が遊んでいる後ろで女性陣は昼食の用意をしていた。食材は家の石箱にあったものと湖で取れた小ぶりの七色魚と中位の大きさの5色魚が数匹。ラミナとポーラは慣れた手つきで準備を進めていくが、リーリエはどこか危なっかしいところがあって視界に入るたびに冷や冷やさせられた。




駆け回る子供達の足がぴたりと止まると、背後からパンの焼ける香ばしい匂いと魚の焼ける良い匂いが漂ってきた。


【ご飯♪ご飯♪】


「もう出来たのかな?」


目を輝かせながらもクルクル踊りはしゃぐソアレとキキに対しておそらく都会っ子のデイジーは既に疲れた様子で座り、近くの花で手首が入るくらいの花輪を編んでいた。


『歩けるかい?』


「それくらいは大丈夫ですわ」


差し出した手を握り返し、デイジーは立ち上がるとソアレとキキと並んで匂いの方へと楽しげに歩いていった。




厚手の敷き布の上には私を除く人数分の塩焼き魚とパンの乗った皿と火の国原産のカレーという辛味のある香辛料を調合した調味料で味付けしたスープの入ったカップが並べられていた。私の前には数個、色とりどりの魔石が盛られていた。


「これはデイジーのね」


ラミナが差した皿には小ぶりの七色魚の焼き魚が乗っていた。


「食べたかったんでしょ?」


「はい!ありがとうございます」


七色魚の乗った皿の前にデイジーが座り右にリーリエ、左にはポーラが座り、対面にはソアレとキキが中央に私とラミナは両端に座った。


食事の挨拶が終わり、かぷりと一口、デイジーは魚をかじると目を閉じ頬を蕩けさせていた。


「なんて、美味なんでしょう。お姉さまも一口」


妹に勧められるままリーリエも一口魚をかじるとデイジーと全く同じ表情を浮べていた。


「ただ、焼いただけの魚がこんなにも美味とは」


閉じた目を開き魚を凝視する姉に妹は


「お姉さまが宜しければ残りはお姉さまが食べてくださいな」


「良いのか?お前が食べたかったのだろう?」


「勿論、わたくしも食べたかったですけれど、何よりお姉さまに食べて喜んでいただきたかったのです。いつも頑張っておられるお姉さまに少しでも英気を養っていただければと」


「デイジー…」


妹の名を呟くと感極まったリーリエはぎゅっとデイジーを抱きしめた。


『良い妹だな』


「ああ、私の自慢の妹だ」


私の言葉にリーリエは自信に満ちた笑顔で反した。

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