超絶イケメンは料理も出来る
俺が師匠に完敗した後の事―。
「ふむ…流石にワシも眠くなった。
お前さんには色々教えたい所じゃが、それは後にしよう。
ワシは少し寝てくるから、楽にしておれ…。」
そう言うと師匠は寝室へと向かって行った。
「うーん…。楽にと言われても眠くも無いしな…。」
そうなのである。
この体に成ってから、全く眠くないのだ。
師匠に客室を宛がわれたのだが、俺は全く眠くない為、暇をもて余していた。
「…よし、あれをしよう…。」
そう言うと俺は、この家に来てからやりたくて仕方なかった事を始めたのだった…。
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「ふんふんふーん♪」
俺は口歌を口ずさみながら、ハタキを振り、棚や置物からホコリを落とす。
粗方落とし終わったら、床を箒で掃き、雑巾で拭き取り、退かしていた物を整理しながら並べ直す。
やはり部屋が綺麗に成ると気持ち良いな。
次に取り掛かるのは、洗濯物だ。
師匠は洗濯物を溜め込む癖があるらしく、相当な量があった。
更に洗濯機なんて物は無く、洗い場に有ったのは洗濯板のみだったのだが、レッサーヴァンパイアの俺の体力なら余裕を持って終わらせられた。
洗濯物を干してる間に、鍋で煮込んだスープの味を確認する。
食材は冷蔵庫らしき箱の中に入っており、調味料も過不足無く揃っていた。
この事実を加味すると、時代背景は中世と言うよりも随分近代に近そうだ。
ここらへんの話も聞いてみたいな。
「…うん。流石俺。旨い。旨いけど、なんて言うか食糧じゃないのは分かるんだよなぁ…。
血みたいに拒絶反応は無いけど、食べ物じゃない。」
まぁ、味見したり出来る分、大分助かったが。
此処まで見て貰えれば分かるとは思うが、俺がやりたかった事。
それは、そう“家事”である。
師匠が汚いコップを出した時から思っていたのだが、この家は汚いのである。
男やもめの師匠だけなら仕方がない事だが、超絶イケメンの俺も暮らす事に成ったのだ。
汚いままには出来ない。
…いつ女の子を連れ込むか分からないのだから。
俺の家事スキルは極めて高い。昔から実家の家事は全て俺がやっていた為、何一つ苦には成らなかった。
正に超絶イケメンである。
「…」
粗方の家事を終えて、少し休憩していると、師匠が起きて来た。
しかし師匠は周囲を見回した後、ボーッとしたまま動かない。
「師匠、おはようございます。
寝起きに水を用意していますが、どうされますか?
食事の支度も整っています。」
「…」
師匠はまだボーッとしている。
こうしてじっとしていると、ハゲ頭が親指に見えてきた。
「……」
…!
このジジイ、よく見たら後頭部の申し訳程度に残った髪が、ハゲた頭と相まって髭みたいにみえる…!
ヤバイ、ヤバイぞ!!
そう見たらめっちゃ笑えてくる…!!
正面と背面に顔があるジジイだ!!
駄目だ…!
このままじゃ駄目だ…!!!
俺は冷静に成り、後頭部に顔を描くべく近付いた。
…殴られた…。
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「味の方はいかがですか?
「…いや、大丈夫じゃ。
丁度良い塩梅じゃて。
旨いぞ。
しかし、ワシはお前さんの事を多少誤解しておったのぅ。
もう少し傍若無人な奴かと思って居ったわい。」
師匠は俺の用意した食事を食べながら、そう言った。
なんて失礼なハゲだ。
俺程の紳士を掴まえてそんな事を言うとは…。
「いえ、今までの自分の態度から考えて、そう思われるのも仕方ありません。
今後は誠心誠意、師父の身の回りのお世話をさせて頂きたいと思っております。」
「うむ、感心じゃぞ。
しかし、お前さんは随分料理が上手じゃのう。
料理屋の
「いえ、僕の父は銀行で働いておりました。
仕事人間で家に居らず、家事は全て僕がしていたので、今では得手としております。」
「…奥方はどうしておったのじゃ…?」
「離縁しております。」
「…そうか…。」
そう、俺の両親は離婚している。
……まぁ、母親には良い思い出が無いし、離婚してくれたお陰で結構好き勝手出来たから良しとしているが…。
「…ところで、このスープは旨いのぅ!
どう言った料理じゃ?」
師匠は話を変える様に、俺に料理の話を振って来た。
なんと言うか、不器用だが優しい師匠だ。
「子羊のモモ肉を香草と沢山の野菜と共に煮詰め、香辛料とほんの少しの塩で味を整えた物です。」
「…訂正じゃ。
お前さんはやっぱり傍若無人じゃ…。」
なんだその目は。やはりイケメンが羨ましいのか。
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