ゴブリンと五分の勝負




木漏れ日の差し込む、少し開けたら森の中に、一組の異形が立っている。


片方の異形は、子供程の身長に緑色の肌。

ワシの様な尖った鼻を持ち、知性を感じさせない濁った瞳をしている。

手には雑な作りの棍棒を持ち、体つきは醜い餓鬼の様だ。


“ゴブリン”。


“繁殖王ドゥブロヴニク”の最下級の眷族であり、この世界の魔族の中でも弱者の位置に居るモンスターだ。

“数”をその武器とするゴブリンだが、今は一体のみしか居らず、もう片方のモンスターと向き合っている。


それに向かい合う異形。


身長は120㎝程。

体重21キロ程で、艶のある白髪を肩口まで伸ばし、その整った顔立ちは、例え幼くとも見る者の心を奪う―。


すなわち、超絶イケメンのこの俺。

井上智也改め、“ユーリ=ネルタナス”その人である。



あれから3ヶ月。


俺はなんやかんやで結局ジジイに師事する事に成った。

まぁ、ぶっちゃけそうしないと生きて行けなかった訳だし、当然と言えば当然である。


…まぁ、感謝もしているが、それを伝えるとジジイは調子に乗るので言わない。


新しい名前は、

「“井上智也”と言う名前は、この世界では明らかにおかしい」

と言う意見の下、新たにジジイが俺にくれたものだ。


“ユーリ”はこの国の古語で“友人”を意味し、“ネルタナス”は、直訳すると“タナスの弟子”と成るらしい。

魔術師ソーサラーに弟子入りした人は、大体“ネル○○”と言う名前を名乗るそうだ。


つまり、“ユーリ、タナスの弟子で魔術師見い”と言う名前なのだ。



『グルバァァッ!!』



目の前のゴブリンが唸る。

言語化は上手く出来ないが、このゴブリンは明らかに俺の事を侮っている。


“子供のレッサーヴァンパイアなぞ、餌にしてやる!”みたいなニュアンスである。


この翻訳チートは相当便利なのだが、複雑な言語コミュニケーションを取らない種族相手だと、ニュアンスが読み取れるぐらいなのだ。


―それでも相当便利だが。



『かかってこいよ、童貞。』



『!?』



話かけられるとは思ってもいなかったのか、驚いた顔をするゴブリン。



『ブルルルルッ…』



しかし、意味を理解すると、その表情は怒りに歪んだ。



『おーいみんな!このゴブリン童貞だって!!』



『ゴルンノヴァァァ!!!』



ゴブリンは怒りに任せ、俺を殺すべく大きく棍棒を振り―



「おせぇよ!!」



『バルァッ!?』



しかし、その棍棒を降り下ろす前に俺はゴブリンの懐に入り、鳩尾みぞおちに右の拳を見舞った。



『ゴ…ル…!』



苦悶の表情を浮かべ、ゴブリンはその手から棍棒を放す。



『ぐるるる…』



『どうした?餌にするんじゃ無いのか?』



ゴブリンはこの手痛い反撃に、俺に対する評価を改めた様だ。

手がめっちゃ痛い。折れてる。



ゴブリンは俺に向き直り、勢いに任せて飛び掛かる!



『馬鹿が!』



俺は左に避け、そのまま右足を二度目となる鳩尾みぞおちに見舞った!



『グルバァァッ!?』



くの字になるゴブリンと、俺の右足。

ゴブリンは流石に堪えられ無いのか、膝を着き悶絶している。

俺もしている。


俺は泣きながら体を引き摺り、悶絶しているゴブリンに近付き、その首筋に牙を突き立てる。



吸命ライフスティール



この3ヶ月で馴染んだ魔術を使うと、急速にゴブリンの血液とマナが俺に流れ込み、やがてゴブリンは息絶えたのだった…。



「見事じゃ!!ユーリよ!!体術は申し分無いぞ!!」



ジジイはそう言って俺に近寄る。



「ワシの見込んだ通りじゃな。お前さんは才能がある。この期間でここまでの動きが出来るとはの!!

言うこと無しじゃ!!」



フム、ジジイも漸く俺のイケメンぶりに気付いた様だな。

でもね、俺は言いたい。



「折゛れてるってええあえてえええ゛てて゛゛゛えだ!!足も!!折れてる折れてるんだよぉぉぁぁぁ゛゛゛゛゛!!」



「…体術は申し分無いが、魔術はまだまだじゃのう…。

上手く“光”系統の魔術を使い、体を強化せんと、存在力レベルが上の相手じゃと怪我をするぞ?」



「っしてんだよ!!ハゲ!!テメーの目は節穴かハゲ!!」



「貴様!師に向かってなんたる言いぐさじゃ!!分を弁えんか!!」



「うるせぇぇぇぁぁぁぁっ!!

やんのかハゲこら!!」



「やったるわ馬鹿弟子がァッ!!」







存在力レベル系統魔術けいとうまじゅつ

これがこの世界で俺がジジイに教わっている内容なのだ。


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