超絶イケメン、テンプレ通りトラックに潰される。

木々も色づき始めた10月半ば。

学生達で賑わう、私立城西高校の校舎裏に、一組の男女がいた。


男の伸長は183センチ。体重75キロ。

肩口にかかる艶やかな黒髪を、整髪料で自然に整え、前髪のみ後ろに流してヘアピンで留めている。


目鼻立ちはクッキリとし、切れ長の凛々しい瞳は深い知性を感じさせる。


10人居れば、11人がイケメンと言い、残る35億人が抱いてと言うであろう超絶イケメン。


それがこの俺、井上智也いのうえともやである。


部活は弓道。

趣味はフットサル、ファッション、漫画にラノベ。

ゲームもまあまあしたりする。


と、言っても、ラノベやゲームが趣味ってのは、極親しい友人しか知らないけど。


だが、そんな多趣味な俺の一番の趣味。




それは―





「…智也先輩…好きです…。」





“女”である。





そう!男に生まれた以上、可愛い女の子のお尻を追っかけるのは使命!

いや、もはや宿命と言える!

そんな、男の宿命を抱えた俺の前に佇む一人の美少女…。


この子は、今年の1年の中でもNo.1美少女の呼び声高い、三浦春菜ちゃんだ。

肩口で切り揃えたショートボブに、童顔ではあるが、整った顔立ち。


そして何より巨乳である!

巨乳である!大事な事なので二回言った!!

入学式で目を付け、ここまで長い道のりだったが、漸く告白まで漕ぎ着けたのだ。


…相手側の告白と言うオマケ付きで。


いかんな、女の子を待たせる訳にはいかない。



「…俺も三浦の事がずっと気になってたんだ…。」



「じゃ、じゃあ…!」



「あぁ、良かったら俺と付き合って欲しい。」



「…先輩!」



フッ…流石俺。

これで今年の新入生No.1も俺のハーレムに…



「ちょっと、智也!どう言う事よ!!」



なんて事を考えていたら、校舎の影からもう一人の美少女が出て来た。

腰までかかる黒髪に、意思の強そうな目鼻立ち。


秋野時雨。


俺の同級生にして、である。

なぜだ!?何故時雨がここに!?

今日は薙刀部の練習試合のはずじゃあ…



「何黙ってんのよ!?あんた、ついこないだ私に告白したばっかりなのに、もう後輩の子と浮気してんの!?それとも私とは遊びって事なの!?」



違う!断じて違うぞ!

確かに俺は浮気癖が酷い。いや、好きに成ってしまう人が多い。

だが、俺は浮気で恋はしない!

全員が本気で好きなのだ!!

だが、そんな事を正直に話せばこの場は修羅場と化す。

俺は二人を落ち着かせる為、努めて冷静にこう言った。




「二人供好きだ!!」




「……」「……」




耳を裂く静寂に、刺さる二人の視線。

…冷静じゃなかったね。うん。



「最ッッ低!!」



唸る右の平手打ちと共に罵声を浴びせた後、早足で時雨は去っていった。

残されたのは俺と春菜ちゃんだが…。



「先輩…酷いです…。」



目に大粒の涙を貯めて春菜ちゃんは去っていった。

こうして、久々の告白イベントは失敗に終わったのだった。












ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー








「いてて…。」


俺は少し腫れた左頬を擦りながら、街を歩いていた。

この左頬の腫れは、さっき春菜ちゃんに殴られて出来たものだ。


まぁ、あのまま別れたら、酷いトラウマ残しそうだったし…。

様は、帰りなのだ。



本当に好きだった事。

告白して貰えて本当に嬉しかった事。

今までの想い出を交えながら伝え、気持ちの整理がしやすい様に話をして来た。


…結果、気持ちの整理の為に殴られた訳だが。



「…時雨とは明日話すかな…。」



きっと、時雨にも振られるだろう。

そんな事を考えながら歩いてた時だった。



俺が彼女と出会ったのは―




「…なんだありゃ?コスプレイヤーか…?」




通りの向こう側から、一人の女性が歩いて来るのが見えた。

普通なら顔のチェックを済ませて、可愛いければ声をかけ、可愛く無ければスルーするだけなのだが、その時の俺はそんな事も出来ずに息を飲んだ。



―美しかったのだ―



白く透き通る様な肌。


聖別した銀糸を思わせる艶やかな白髪。


これ以上無いくらいに整った顔立ち。


真紅の瞳。




俺が今まで見たどんなものよりも、その女性は美しかった。

暫く見とれていた俺だったのだが、彼女が向かいの交差点近くに差し掛かった時、ある事に気付いた。



「…不味い…!」



彼女に気付いて無いのか、一台のトラックが左から直進して来る。

しかし、彼女も気付いて無いらしく、そのまま歩いて来ていた。

俺は何かを考える前に、彼女に向かって走り出した。



「間に合え!」



まだ一言も言葉を交わした事の無い人。

これまで会った誰よりも言葉を交わしてみたいと思った人。

絶対に…絶対に死なせる訳にはいかない!



「ハッ!」



彼女のすぐ手前までたどり着いた俺は、彼女に飛び付く様に飛んだ。


しかし、


文字通り、触れる事なく通り抜け、そのままトラックに潰された。

















ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー










「…驚いたのう…よもや、かの世界で妾を見える人間が居ろうとは思いもせなんだぞ?」



綺麗な声が聞こえる。



「しかし、妾はかの世界ではかそけき者らと変わらぬ。あの鉄の固まりとて触れる事など有りはせなんだのじゃぞ?」



暗い…何も見えない…。



「つまりそなたは無駄死にでしかないのじゃ。」



寒い。



「しかし、妾の為にその命を投げ出した事だけは評価してやろう。

…最後に何か言い残す事はあるか?」



薄れ行く意識の中俺は、そう語りかけて来た彼女に向かって、どうしても伝えたかった言葉を紡いだ。



























「今度お茶でもどう?」
























それだけ伝えると、俺の意識は無くなった。

これが、俺の異世界転生の始まりである。

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