第78話 忘れたいことがいっぱいある彼女
高校の部活――僕の場合は小中高と放送委員、放送部的なことをしていました
音楽が好きで、お昼の放送でDJ(クラブとかスクラッチをするDJではなく、ラジオのパーソナリティ)をやりたかったのと、機材をあれこれいじるのが好きだったので、それは今でもネット配信と言う形で続けている僕のライフワークのようなものですが、高校生ともなると反省会は居酒屋のチェーン店なんかでやったものです
仕事の後の一杯、飲みにケーション的なことを、そのころから社会に出る前に予習をしていたわけですが、アルコールとの上手な付き合いと言うか、自分をコントロールできる状態を保つために、限界値を知るというか、そんなことをしておりました
それでわかったことは、僕は割とアルコールに耐性があるのだということ、そして泣きだしたり、怒り出したり、わめいたりというタイプではないことを知りました
2年生の体育祭のとき、有志の応援団に参加し、そこでようやく子供の頃の苦手を克服します
あの苦かった泡が、汗をかいた身体にはどうしようもなく美味しく感じるのだとわかったとき、僕は本当の意味でアルコールと仲良くなれたのかもしれません
しかし同時に、そういうものに飲まれてしまって身を崩す人が少なからずいること、そしてこれからはそういう人たちを卑下することも無視することもできないのだと、悟ることになります
体育祭が終わり、応援団で熱い汗をかいた者同士で、お互いの健闘をたたえる会が開催されました
応援団は男子は学ランで大声を張り上げ、女子はチアを務めるわけで、いやぁ、みんな可愛かったなぁ
そういう楽しい場で、ちょっと悪目立ちする後輩の女子がいて、これはちょっとまずいなぁと思っていたら、案の定、泣き出したりしましてね
どうにも気になってしかたがない
彼女はしきりに「忘れたいことがいっぱいあるの」と手当たり次第に男子に抱き着き、慰めを求めます
まぁ、年頃ですし、そりゃあ、忘れたいことの一つや二つはあって当たり前かなぁと思いつつも、いささか度を超えているようで、いや、待て待て、また悪い癖だぞ、やめておけと地団太を踏んでおりました
それはもう、経験があるからなのですが、アルコールがらみで女子と関わることは、危険と言うか、リスクというか、何が起きるかわからないというか、相手の闇を覗いてしまって、乱されるというか
つまり一度失敗をしているのです
それについてはまた後日、お話しする機会があればと思いますが、まぁ、兎に角、僕は揺れていました
宴が終わり、帰りの電車の中、図らずも同じ方向、彼女は歩けはするものの、終電間際に一人で帰していい状況ではない・・・他にも数名、男子がいて”まずいんじゃないの、あのまま放っておいたら”などと言うのですが、この電車を途中で降りたら、もう電車はありません
彼女は最寄駅に着くと、すっと立ち上がり、電車を降ります
その後姿が、どうにも放っておけない僕は、警笛と最終電車のアナウンスの中、彼女を追いかけて電車を降りました
”彼女を送ったら、公園でも見つけて始発までベンチで寝てよう”
それは若さなのか、或いは馬鹿さなのか、その時はまだ、彼女がいったい何を忘れたいのかということについて、まるで警戒心が足りていませんでした
その彼女の闇とは・・・
では、また次回
虚実交えて問わず語り
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