怪物譚

第73話 血吸うたろうか? バンパイアの話

 ドラキュラ、フランケンシュタイン、狼男と言えば、三大西洋モンスターということになります

 ただ、これは漫画的呼称であって、正確を期するのならヴァンパイア、フランケンシュタインの怪物、狼男となりますね


 ドラキュラは吸血鬼の中の1人――ブラム・ストーカーのゴシック小説に登場するドラキュラ伯爵のことであり、ルーマニアの古城からロンドンに現れ、世界を死者で溢れさせようとした吸血鬼のことを差します


 彼の企てはヘルシング教授や吸血鬼の存在に気付いた仲間たちによって撃退され、最後は寝首をかかれるわけですな


 吸血鬼の容姿、鏡に映らない、ニンニクが嫌い、十字架が嫌い、太陽が嫌いという設定は、ブラム・ストーカーによって考えられたもので、本来はどの吸血鬼にも効果があるものではないということになりますね


 ドラキュラ伯爵はルーマニアの城主で、竜公(ドラクール)と呼ばれるほどに勇猛であり、串刺し公との異名を奉られるほど、敵に対しては容赦がなかったそうな

 異教徒であるトルコの軍勢をことごとく打ち破ったのですが、物語の中では紆余曲折、神に裏切られ、逆恨みをするわけですな

 だからイスラム圏ではニンニクは嫌われるものなので、キリスト圏に恨みを持つドラキュラとしては、イスラム側に立って、ニンニクと十字架が嫌い。そして悪魔なので太陽が嫌い、光が嫌いなので鏡に反射しないとなるのでしょう


 つまりこの作品が多くの人の吸血鬼のイメージをドラキュラ伯爵に固定させたわけですが、歴史的にはそれに先立ってアイルランド人作家ジョゼフ・シェリダン・レ・ファニュが1872年に『カーミラ』という女吸血鬼の怪奇小説を書いており、『カーミラ』に影響を受けて男版の吸血鬼ドラキュラが誕生することになります


 吸血鬼伝説というのは世界各地にあり、特にヨーロッパでは古くから魔女の存在が信じられ、その伝承の中には吸血や生気を吸い取るとうものもあったのでしょう

 さらに言うと狼男については、変身譚としては古くから存在し、魔に堕ちた女性が魔女になり、男性は狼男に変身すると言われていました

 怪物や悪魔というのは、その地方の文化、宗教と無縁ではなく、集団からはみ出す存在や違う神を信じる人や集団に対して大変恐れを抱いていたということがうかがえます


 すなわち怪物とは、人の心が生み出した嫌悪や恐怖や畏れを具現化したものであり、故に背徳や禁忌といったエロチズムとも無縁ではないと僕は考えます


 ”吸血鬼は自分から人の家に入ることはできない”とは即ち、女性が招き入れなければ、間男が勝手に入ることはできないという設定も納得がいきます


 ブラム・ストーカーのドラキュラに最初に狙われるのは三人の男から求婚されている魅力的な女性と言うのも実にうまい設定だと思います


 つまるところ怪物の魅力とは、人の恥部、暗部をいかに投影させるかということに尽きるのではないでしょうか?


 さて、あなたがもしも吸血鬼になったのなら、誰の血をご所望ですか?

 僕は――


 では、また次回

 虚実交えて問わず語り

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