第70話 結(ゆい)が生まれた日

 考えれみれば、アンサーソングを作るのに、相手に曲を書いてもらうというのは、なんだか本末転倒しているのではないのかと、思わなくもなかったのですが、それはどうでもいいと思ってしまった自分は、何か確証めいたものを持っていたのかもしれません


 作曲をお願いはしたものの、僕は僕で、”結(ゆい)”の歌詞口ずさんだり、ギターを弾いてコードを探したり、音を探したりしていました


 ”それぞれの応えあわせをしよう”


 Toshi君とスタジオに入る約束をしたのですが、実はこの時期にもう1曲、別の人に別な歌詞で作曲を依頼していたのです


 "Looking For"というその曲は、イメージをある程度伝えてあったので、大よそその通りできあがってきたのと、歌詞の文体とテーマが持っている佇まいが導き出す答えに対して作曲者との共通理解があったことで、自分が作りたかった曲に仕上がりました。


 ”自分の居場所がどこなのか

 あいつに聞こうと携帯手にする

 着信履歴に残された

 あいつの番号にかけてみる


 しかしどうやらつながらない

 あいつはどこかに逝っちまったらしい

 I'm looking for a guy 夕暮れの街に

 I'm looking for a guy 手遅れになる前に”


 この経験から、僕の選択肢は間違っていなかったと思ってはいたのですが、一月後Toshi君が出した答えは、僕の期待以上に”紡(つむぎ)”のアンサーとなる”結”であり、僕の持っていた答えとほぼ同じでした


 そして僕のツボを心得ている

 Bメロにあたる部分は文字量としては少なめで、テンポアップを狙っていたのだけれど、その意図をしっかり汲んでくれたし、2/4の変拍子を入れたことで緊迫感みたいなものが表現できている

<Bメロ>

 ”君がいない ここにいない 僕を残して”

 触れしまえば 壊れそうな 現実”

<サビ>

 ”くだらない 悲しい

 諦めない 言い訳しない

 それが僕の結”


 そしてサビについても、最後の”結”というところへの帰着感も当たり前のようで、そうなっていることが大事


 一緒にスタジオに入ってデモ音源を録音して、そのあと居酒屋で音楽談義・・・半分、恋愛や将来のことやいろいろ彼と話しました

 Toshi君とは親子ほど歳が離れていますが、こうやっておじさんの相手をしてもらった本当に感謝です

 出会った頃は二十歳そこそこだった彼も、いろいろと覚悟を決めなければならない年齢になっている


 もしかしたら、こんなことは今後頼みづらくなるような高みに上り詰めるのかもしれないし、或いは音楽を諦めて別の道に進むということもあるのかもしれない


 人生というのは自分のものでさえ、ままならぬのだから、こういうことはできるときにやるべきなのである

 もちろん闇雲に誰にでもお願いしていいという話ではない


 僕と彼と、彼らとの間で築いてきた、或いは紡いできた絆があればこそである


 紡いで結んで、その次は何をしようか?


 では、また次回

 虚実交えて問わず語り


 

  

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