想定外のテンプレート

第21話 男子の想像力の限界

 ”もう、男の子って!”と怒られることしばしば

 そしてそういうとき、だいたい口をぱかーんと開けて

 ”えっ、なに? どうして?”と狼狽(うろた)えるのです


 男の子と女の子は永遠に分かり合えず

 男と女は永遠に騙し続ける


 誤解から生まれる不和とは、”想像力の欠如”の場合と”使っている言語の齟齬”があり、男性が「俺の味噌汁と作ってくれ」と言ったとして「私、朝はトースト派よ」と女性が答えたとしよう


 さて、この二人は意思疎通ができているのであろうか


 答えは”わからん!”が正解で、文脈がこの2つだけではプロポーズしようと男性が一大決心をしてそう言いだしたのか、彼女が天然なのか、現実主義なのか、冗談が通じるタイプなのかわからない


 たとえばこんな文脈だとどうでしょう

--------例文1-------

 僕はついに彼女に告白をすることを決意した

 だけど、ストレートに「結婚してくれ」とか婚約指輪をサプライズで渡すみたいなことは、したくない


 断られたときのショックは想像にあまりある


 ここはひとつ様子見で例の慣用句を使ってみよう


 僕は部屋に遊びに来た彼女が、台所で洗い物をしているタイミングで声を掛けた

 どうも正面切って言うのは、照れ臭かった

「なぁ、俺の味噌汁を……作ってくれないか」

 彼女は振り向きもせずに答える

「私、朝はトースト派よ」

 ”はい”か”いいえ”の答え、或いは”考えせて”という先延ばしくらいしか想定していなかった僕は言葉に詰まってしまった

「あ、あの、味噌汁……」

「でも、そうね。わたしは名古屋出身だから赤だし派なんだけど、大丈夫?」


--------例文2-------

 

 彼がいつもと様子が違うのは気づいていた

 これはもしかしたら例のイベント発生フラグかしら!

 胸ときめかしながら、わたしは彼が”きっかけ”を掴みやすいようにわざと隙を作って彼の援護をした

 彼は肝心な時に声が裏返ってしまうような可愛いところがある

 それはそれでいいところなんだけれど、私としては、決めるべきところではちゃんと決めてほしい


 私が台所で洗い物をしていると、いつもはスマフォをいじってばかりいる彼が近づいてくる、もしかしたら無理をして婚約指輪とか用意してくれているのかもしれない

「なぁ、俺の味噌汁を……作ってくれないか」


 えっ? なんですか、そのレトロがレトルトになっているようなフレーズは!

 ありえない、マジ信じられない

「私、朝はトースト派よ」

 あっ、しまった

 これ、彼には難易度高いフリだったかしら

「あ、あの、味噌汁……」

 だって、あなた朝は食べないっていつも言ってるじゃない!

「でも、そうね。わたしは名古屋出身だから赤だし派なんだけど、大丈夫?」

 まぁ、いいわ。どうしたって、これだけは譲れないもの!


 しかし困ったなぁ

 この人で、わたし、大丈夫かしら


-------おわり--------


 いろいろと異論はおありのこととは思いますが、およそこれと近いフォーマットで世の中の男女の会話は成り立っているのです(ということにしてください)


 大事なことはこの2つの文章を読み比べて、それぞれが相手にどのようなことを期待しているかがまるで違うという事、そして読んでいただいた読者の方々がそれぞれどちらに理解と共感を得たのかと言うことです


 それはどちらが正しいかではなく、どちらが読み物としてすっと自分に入ってくるかということなのですが、いかがでしょうか?


 ではまた次回

 虚実交えて問わず語り

 

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