第19話 集合体の孤独

 2018年3月9日 サンキューの日

 東静岡に全国から仲間たちが集まった

 彼らの目的は山作戰(*1)という静岡で活動しているアーチストの1000人ホールライブを見るためだった


 いや、そうではない

 いや、そうなのだ


 山作戰の大きなイベントを見たい、参加したい、応援したい

 まずはそこからなのだが、山作戰を同じように応援する仲間たちがそこに集まるからこそ、その場所に足を運ぶのである


 少なくとも、僕はそうなのだ


 あの時もそうだった


 2011年1月 下北沢のダイニングバー(*2)で開催された山作戰のランチライブ

 知り合い以外のインディーズアーチストのライブに足を運んだのはこれが初めてだった

 だけどそこに集まった人たちは初めましてなのに初めてじゃない面々だった


 僕らは山作戰が毎週木曜日にライブ配信していた『ぼくなまはげ』というUSTや、路上ライブをライブ配信(*3)したツイキャスなどでアカウント名ではお互いに知る仲だった


 いわゆるオフ会的な出会いであったが、へんてこな山作戰サウンドに魅了された一癖も、二癖もあるような”聴き手”の集会は、僕の知的好奇心を徹底的に刺激し、山作戰と彼を愛する人たちとの”アングラなコミュニティ”は、秘密基地を見つけたようなわくわく感にあふれていた


 実際、ライブの素晴らしさもさることながら、その後の打ち上げは、”これぞ山作戰の打ち上げ”というような伝説の会であったと思う


 有名な雑誌の副編集長のキレキレのダジャレに参加者全員がスタンディングオベーションをしたり、メイドコスプレ女子二人組みが徳島から飛んできたり、大道芸人が水晶玉を操ったり、かつてハマナコンというSF大会(*4)を主催したアクセサリー職人が鼻笛を吹いたり……


 それまで僕が過ごしてきたどんな日よりも”濃厚な1日”


 それまでの山作戰がどういう活動をしてきたかについては、僕はあまり知るところではないのだけれど、東京で定期的にランチライブを行うようになったのはこれが最初ではなかったか


 あそこから始まったすべてが、3月9日の東静岡グランシップ中ホールにつながり、そしてその先の景色を見せてくれるだろうという期待に繋がっているのである


 山作戰はライブ配信や彼を応援するコミュニティFM(*5)によって全国にファンをつくり、北海道から九州までツアーをするようになり、運命的な出会いを繰り返しながら、たくさんの人の力添えで東京での2回のホールライブを行う


 活動拠点を東京から静岡に移し、地元での認知度を徐々に上げ、ゼロから積み上げて、ついに静岡で1000人規模のホールライブを開催するまでに至った


 そしてそこには、地元の人の熱い声援と、かつての活動拠点の東京、彼の生まれた熊本をはじめ、九州からもたくさんのファンが駆けつけた


 僕らが彼ら一人ひとりに会おうと思えば地理的、時間的、経済的なことからそうやすやすと会うことは叶わない

 しかし、こうして山作戰というアーチストのお祭りがあれば、懐かしい人たちや新しい人たちやご無沙汰な人たち、遠い国の人たちと会うことができる


 会って、話して、笑って、いい音楽に感動して泣いて、MCに笑って、握手して、また会おうと約束して、お酒を飲んで、音楽について語り合って、バンドの健闘を称えて、少し辛口で、それでも陶酔して、やっぱりうんちくがあって、気がつくと夜中で、タクシーが迎えに着たり、ホテルに帰ったり、別れを惜しんで抱き合ったり、取り残されて、しんみりと語り合ったり、そして始発で東京に帰ったり……


 嗚呼、これが山作戰なんだ


 宴が終われば、それぞれの持ち場に戻り、ギアはニュートラルに入れなおされる

 そこにはまた孤独が待っているのかもしれない


 僕らはおそらくマイノリティである

 今のありように満足しないで、自分でそれを埋めようと手を伸ばしたり足を運んだりする少数派である


 1000人の少数派が全国から集まり、古い顔も新しい顔も笑顔の後ろに何かもどかしさや満たされない欲を抱え、その思いを山作戰に託している


 僕らは孤独を抱え、それと向き合い、夢を託す


 孤独を愛でる集団は、ナイーブさと大胆さを併せ持つ


 よき日を称え、よき宴に酔いしれ、よき友と語り合い、よき音に震える

 それは何事にも代えがたく、宝石のような時間


 この物語はまだまだ続くだろう


 ではまた次回

 虚実交えて問わず語り



(*1)山作戰

静岡を中心に活動している歌うたい高山真徳の音楽作戦名

http://www.yamasakusen.jp/


(*2)下北沢チベットチベット

現在は移転し、農民カフェ下北沢として営業している模様

https://www.facebook.com/farmerscafeshimokitazawa/


(*3)ライブ配信

ニコ生、USATREAM、ツイキャスなどインターネット回線を利用した生配信サービス。

2010年が黎明期であり、震災直後にはテレビに変わるメディアとして注目されたが、2017年にUstreamはIBMに買収され、ブランド名が消滅し、変わってサイバーエージェントが提供するFresh!やAbemaTVといった新しいサービスもはじまり、過渡期にある(という筆者の独自見解)


(*4)日本SF大会

1960年代から日本で開かれるSF大会であり、日本全国のSFファンやSF同人サークルが一堂に集う祭り。はまなこんは1995年8月19日〜20日に開催され参加者は約1500名であったと言われている。直近では2017年8月第56回日本SF大会 ドンブラコンLL(静岡グランシップ)


(*5)コミュニティ放送

都市圏単位のエリアを民放放送局が運営しているのに対してコミュニティFMは町単位の狭い地域でより地域に密着した情報とサービスを提供する小規模な放送局

地方自治体と民間の共同出資による第三セクターが多い

現在ではインターネットを介して全国のコミュニティFMを視聴することが可能となっている

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