第2話

「そう言うわけで杖ついての登校です」

「それ大丈夫なの? 二度目なんでしょ、流石に犯人も」

「これがまた捕まらない。雨で視界がぼやけてたし、色ぐらいしか覚えてなくってな」

「足、歩けるようになる……よね? 哮太君」


 顔を真っ青にしているのは乙茂内だ。凶器を振り回されて追い掛けられる恐怖を、彼女は知っている。


「走れないのは元からだけど、歩くのはこのままリハビリ続けてれば大丈夫だってさ。だからそんな泣きそうな顔すんな乙茂内、アイプチ取れるぞ」

「取れても貼り付ければ良いだけだもん! でも哮太君の足はそうじゃないんだよ!? もっと危機感持ってよ、こっちが怖くなるよ!」


 部室に響く声に、にししししっと百目鬼先輩が笑う。


「まあ、これで探偵部の活動方針は決まったね」

「そうね。ね? 美女ちゃん」

「はいっキツネさん!」


 むんっと乙茂内はそこそこある胸を張る。


「哮太君を狙う犯人をやっつけます! 私、バット買ってきて釘打ち付けます!」

「それならそこの物置にあるよ。ヒヒッ、でも確かに、部員が狙われるとは由々しき事態だからね、あたしも賛成しようじゃないか」


 百目鬼先輩にチキンナゲットを無理やり口に押し付けられて、俺はむぉ、と口を開ける。すると乙茂内がタコさんウィンナーを押し付けて来た。両方もぐもぐやっているとキツネさんが、珍しく真剣な顔をしている。


「傘を差していたなら誤解かもしれないけれど、傘が取れても狙ってきた。ねえ哮太君、本当に心当たりはなくて? 中学二年の時と、変わったことはなくて?」

「なんか……そうだな、バイクが小さくなって……違う、犯人の方が大きくなったのか?」

「そう考えるのが妥当よ。悪い気分にならないで欲しいのだけれど、三年前の事件の犯人は、あなたの同期の中にいる」

「え」


 思わず声が出たけれど、うんうん、と乙茂内と百目鬼先輩は頷いている。


「だってだって、いくら人数が多くなくったって必ずレギュラーになれる訳じゃないんでしょう? だったら上手い人は潰していくよ」

「たまに怖いこと言うなお前」

「酸いも甘いも潜り抜け芸能雑誌の裏側見てないもんね、美女だって! モデルさん同士で仲が悪かったりすると、どっちもブリザードだよ! そこに包丁持たせたら、って感じじゃない。馬鹿と鋏は使いようだよ!」

「ちょっと意味違うと思うが、鋏は怖いな。馬鹿は怖くないが、鋏を持った馬鹿は怖い」

「ねえ哮太君、ちょっとお願いがあるのだけれど」

「へ? お願いって、なんです? キツネさん」

「今日の帰り、八頭司通りじゃなく九頭竜通りの神社に向かってくれないかしら」

「神社って、えーと……なんだっけ、字は思い出せるのに」

「かんなぎべ。巫倍かんなぎべ神社よ。そこに向かってみて」

「はあ……」


 なんだと言うんだろう。

 キツネさんはいつものように、笑ってはいなかった。

 いつも談笑溢れる部室内では、ユーゴスラビアがある地球儀が日の光を反射していた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る