キツネさんと僕らは○○部
ぜろ
第一部 第1話
そんな彼女は当たり前だがモテる。きさくで自分の容姿も鼻に掛けず、男女共に友達は多い。一度その携帯端末のアドレス帳を見せてもらったことがあるが、クラスメートから中学が一緒だった相手、教師までずらりと並んでいるのはいっそ不気味なぐらいだった。来る者を拒まない乙茂内はまず番号とメアドを交換することから友人作りを始める。
「っ乙茂内さん、よければ僕達と一緒にお弁当食べませんかっ!」
昼休みともなるとこれは見慣れた光景だ。女子はくすくす笑いながら見ているし、数名の男子――『達』なのだろう――は、顔を赤くして乙茂内を見ている。しかし彼女は両手を合わせて頭を下げた。
「昼食は部室でって決まってるの、ごめんなさいっ! 次に何かあった時に、声を掛けてくれると嬉しいな」
断られてしょぼんとした顔を見せた男子生徒は、しかし『次』の可能性にぱああっと顔を輝かせる。わかりました、ありがとうございますっ! とこっちも頭を下げて、少年は仲間の元に帰っていく。いいねえ青春だねえ。
「美女は本当に部活が好きなんだから。まあ、あの二人が居るなら面白いのかもしれないけどね」
いやいやいや。
「それじゃ行こうっか、哮太君!」
この俺、
百目鬼先輩の包帯の下には学校や生徒の弱みや情報が書かれている、らしい。らしいと言うのは見たことがないからだ。口以外の全てを隠している百目鬼先輩は階段で俺達に遭遇し、やっほー、と笑っているらしい顔で片手を上げて見せる。
「百目鬼先輩、やっほー!」
「あはは、美女ちゃんは元気でよろしい! でも哮太君。災厄にでも遭ったような顔をするのは年頃の乙女に対して失礼と言うものだよ。耳目はまだ十六だから、傷付くよ?」
「この前誕生日来て十七でしょう……あれ」
階段の踊り場で弁当の入った巾着を指にぶら下げている俺達は、階下の生徒指導室のドアが開くのに気付く。
出てきたのは茶髪に肩口ぐらいまでの髪をした女の子だった。
「一年G組二十一番、
百目鬼先輩が呟く。って言うか本当に目が見えるんだな。逆にこえーよ。
「アマリリス?」
「それじゃお花だよ哮太君。リリスは悪魔。彼女確か万引き容疑で何度か生徒指導室送りになってるんだよね。実際は何も出て来ないから全部あくまで『容疑者』でしかないんだけど、昨日も百貨店で警備員に捕まってた」
「見てたんですか?」
「んにゃ、あたし情報」
相変わらず怖い人だ。迂闊にエロ本も買えねー。
「動作が怪しいんだってさ。今見てると普通の生徒だけど、お店に入ると途端に挙動不審になるんだって」
「それも百目鬼ネットワークですか……」
「そのとーりっ!」
にゃはははは、と笑う百目鬼先輩は、弁当袋を軽く揺らしながら階下に降りて行った。天里の姿はもうない。しかしわざわざ挙動不審になるなんて、いったいどういうつもりなんだろうな。やろうと思ってはやり損ねてる? 警備員に見付かるほど何度も? 生徒指導室の常連になるほど何度も?
よく解らない話だ。俺は乙茂内と一緒に百目鬼先輩の後を付いていく。それだけでも廊下がざわついた。腕を組んで歩く学校一の美少女とミイラ女。そして俺は、そのおまけだった。
「あら哮太君、浮かない顔をしているわね」
鈴を鳴らすような声はキツネさんだ。さえきつねこ、だから、キツネさん。百目鬼先輩より一つ年上の三年生で、大人びているその容姿は私服で歩いているとモデルにスカウトされることもある。それは乙茂内もだが、彼女はバイトとして女性向け雑誌の読者モデルをやっているので、間に合ってますとにっこり笑える。百目鬼先輩はまあ――たまに写真を取られている。たぶんミステリー本に妖怪ミイラ女として掲載されているのだろう。私服に季節感を出そうとすると、必然夏は薄着で包帯の量も増えている。本当、何が書いているんだろう。そして風呂はどうしているんだろう。油性?
ぱくんっといなりを一つ食べてはーっと溜息を吐く様子は、確かにキツネだ。キツネさんの事は、実はよく解らない。気が付いたら俺達四人がつるんでいて、俺はいつも置いてけぼりなんだが、何故かここにいる。本当、何故。
「そう言えばまた出たらしいわね、『ケータイ泥棒』」
キツネさんの声にきらりんっと目を光らせたのは百目鬼先輩だった。
「そーなんですよ、一年F組全員のケータイが! 放課後までは教師が預かってるから職員室からのドロボーですよ、ちょー謎過ぎて楽しいっ!」
「楽しまないでください」
「おー、でも美女は楽しいと思うけれどなあー」
乙茂内は自分の事を美女と名前で呼ぶ。
「だってA組から始まって、次はうちのG組でしょう? 誰がどうやって盗んでるのか、気になるじゃないですかぁ」
うふふふふっと笑うこいつも大概悪趣味である。顔を裏切って。ロールキャベツを箸でつまみながら他人事のように。まあ今は他人事だが。
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