ローリングストーン

イ「もしもーし、あれ?」

キ「どうしたんだい、イーリくん」

イ「軍手を買いに来たんですけど、売店に人がいないみたいで」

キ「ああ、今日は休みだよ 10日と20日は休みなんだ」

イ「えー、そうなんですか 明日花壇の栽培に誘われたのにー」

キ「誰に誘われたの、それ……

  軍手ならここから東通りを少し行ったところに工具店があるよ」

イ「ありがとうございます、さっそく買ってきます!」


イ「それにしても、キースさんって物知りですよね

  この前みんなで行ったご飯屋さんも美味しかったですし」

キ「ははは、40年以上この街に住んでるからね

  そりゃちょっとは詳しくなるさ」

イ「まあこの街から出る訳にもいかないでしょうしね

  キースさんはずっと警備隊員やってるんでしたっけ」

キ「うん、そうだよ 大学も警察科だったから

  もう30年くらいは同じようなことやってることになるね」

イ「30年……正直想像もつかないです」

キ「僕だって、続けてたらいつの間にかこうなってたって感じだよ」

イ「そういえば、この隊ってキースさんくらいの歳の人少ないですよね

  二十代とか、高くても三十代の後半で」

キ「治安維持の最前線を担う以上、肉体的な限界ってのがあるからね

  幹部職であっても、最低限現場に出れるくらいの体力はないと」

キ「追いつけなくなった同僚は他の国家機関に転属されるか

  ……亡くなってしまうかのどちらかだよ」

イ「私の故郷でもそうでした

  狩りに行ったきり帰ってこなかったり」

キ「私も引き際ってやつを考えておかないとね」


イ「それにしても30年かあ、すごいなあ

  あれ、じゃあヴァイツェ隊長よりも先輩ってことですか?」

キ「あはは、あの人は入隊した時から隊長だからね

  年数は僕の方が上だけど、先輩とかじゃないと思う」

イ「入隊した時点で隊長なんて、そんなことあるんですか?」

キ「イーリくんが知らないのも無理はないか

  説明する機会もなかったしね」

キ「うちは一応国軍に準ずる部隊だから

  隊長は旧家の血を引いてないといけないらしいんだ」

イ「旧家、ですか?」

キ「そう、昔の王家の一因だってこと

  だから入隊した時から特別なんだよ、あの人は」

イ「なるほど〜、じゃあ実戦参加はないってことですか

  どのくらい強いんだろって思っていたから、ちょっと残念です」

キ「いや、隊長は普通に強いと思うよ

  今までずっと命を狙われる立場で、護身のために訓練を重ねてたらしい」

キ「それに、ほら 容赦がないからさ

  あのケティくんやグロキアくんが恐れるくらいだし」

イ「うわあ……」

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