with the light 2

Acoh

ネイブ

力と責任

(音・ノック)

ネ「はーい、どちらさま?」

イ「ん」

ネ「イーリか、どうした?」

イ「これ、キースさんが持って行けって」

ネ「あ、頼んでたやつだ

  ありがとな、助かったよ」

イ「やけに重かったんだけど、なんなの? それ」

ネ「そんな面白いもんじゃないよ

  競技用の木剣の手入れ用具」

イ「ふ〜ん」

ネ「……何でわくわくしながらそこに待機してるんですかね?」

イ「見せてよ、その木剣ってやつ」

ネ「えぇ……いいけどさ」


ネ「ほら、持ってきたよ」

イ「うわ〜、茶色い!」

ネ「特に褒めるところないからって、無理に持ち上げなくても

  てか、茶色でテンション上がるってなんだよ」

イ「でも、すっごい手入れされてるのはわかるよ

  ピカピカだもん」

ネ「俺を育ててくれた剣だからね

  ほっとくわけにはいかないでしょ」

イ「そういやここに入隊できたのも

  剣技の大会で優勝して注目されたからだっけ」

ネ「その通り、街の中でも意外と狭き門だからね、警備隊

  もちろん外部の試験みたいに命懸けじゃないんだけどさ」

イ「みんなの憧れみたいな感じなの?」

ネ「あ〜、消防士とか俳優には負けるけど

  将来の夢を聞いたらちょいちょい出てくる、程度かな」

イ「じゃあ、ネイブもやっぱり憧れてたんだ、警備隊に」

ネ「いや、憧れてはなかったかな……

  というか、目指すのすらおこがましいと思ってた」

イ「ん? どういうこと」

ネ「俺はさ、今でこそなんとか一人前にやれてるけど

  昔は運動も勉強もダメダメで、笑われるような人間だったんだ」

ネ「こんな俺が社会に必要とされるのか不安だったし

  警備隊なんか口に出すのも恥ずかしいと思ってた」

ネ「そんな感じで過ごしてたんだけど

  中学校に入るときに剣技のクラブに誘われてさ」

ネ「どうせダメダメだろうなって思って始めたけど

  いつの間にか夢中になっちゃって」

ネ「周りの指導が良かったんだろうけど

  いつの間にか大会で上位を取れるくらいになってた」

イ「へえ、それで憧れが現実に近づいたってこと?」


ネ「うーん、そういう感じじゃなかったね

  本当に警備隊なんか別世界の職業で考えたこともなかったし」

ネ「ここまで来るような力を周りの人から与えてもらったんなら

  それなりの義務を果たさなきゃな、って」

イ「義務? ネイブが頑張って得た優勝なのに?」

ネ「頑張っても結果が出ない人ってのは必ずいるんだよ

  俺もその一人だったわけだし」

ネ「能力がある人、戦える人っていうのは

  必ず戦う場所に辿り着くことすらできない人の思いを背負ってる」

ネ「だからさ、俺が何か成し遂げられる立場にいるんなら

  それをやるのが、俺の義務かなって」


イ「……わからないかもね、その考え方は

  やりたいことをやるのが一番大事だと思ってるから」

ネ「なら、俺のやりたいことは、みんなに恩返しすることかな

  俺を今まで支えてくれた人たちに」

イ「……」

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