リコリス・ラジアータ1

イ「ふー、南部はいつ来ても空気が重いなあ

  制服を脱いでも警戒が解けないよ、街も、私も」

グ「……よう、こんなとこで何してんだお前

  南部なんか来ても、女子供が遊べるところはねえぞ」

イ「副班長、非番ですか?」

グ「そうだ、ここにはたまには顔を出さねえと

  うるせえやつらがいるからよ」

イ「モテモテなんですね」

グ「嬉しくはねえがな、やつらは肩書きしか見ていない

  エリート様は羽振りがいいからな」

イ「もっと中身を見て欲しい、ですか?」

グ「いいや、そのほうがこっちも楽だね

  金で買える関係ほど甘いものはないってな」

イ「体に悪そうですけどね」

グ「違いねえ」

グ「んで、お前はなんだ

  いつもの、見たことないものを見るんだ〜ってやつか?」

イ「そうです、一度仕事以外でこの辺りを歩いてみたかったんで」

グ「でもなあ、ここで問題に巻き込まれると後々面倒だし

  手軽で安全に楽しめる店、案内してやる」

イ「……」

グ「んな顔するな、お前はまだガキなんだからしゃあねえだろ

  ちゃんとこの街の雰囲気はわかる場所だ、それで我慢しろ」

イ「……わかりました」


(音・ドア)

グ「来てやったぞ、クソ野郎」

店「あ? まだ死んでなかったのか、警備隊員様よお

  一年も来なかったからどっかでくたばったもんと思ってたぜ」

グ「毛穴からウイスキーの匂いさせてるおっさんに心配されるとはな

  死にそうになったら言えよ? 刑務所で延命させてやる」

店「生かすも殺すも自在ってか? ぬかしやがる

  んで、そっちの娘はなんだ、彼女か? 愛人?」

グ「部下だよ、まだ乳母車が必要なガキだがな

  休日だからってお守りをさせられてる」

イ「……ダーツバー、ですか?」

グ「そうだ、まあ西部の奴と比べちゃゴミ溜めみたいなもんだが」

グ「そこのジジイはダーツに処女を奪われたインポ野郎だ

  何かトラブルに巻き込まれたらそいつを頼れ」

店「この店、嬢ちゃんに出せるのなんて

  ホットミルクぐらいしかないぞ」

グ「ダーティなのに憧れる年頃なのさ

  ま、面倒見てやってくれ」

店「はいよ、じゃあ試しに投げてみるかい

  お試しってことでタダでいいぞ」

イ「これがダーツの矢……本物の矢より大分ちっさい

  ええと、この線からあの的に向かって投げればいいんですか?」

店「おう、とりあえずは当てることだけに集中して

  三本投げて見な」

イ「……行きます」

(音・ダーツ×3)

イ「やった、全部当たった!」

店「3、15、6のトリプルか……

  お前さん本当に初めてか? ウチの常連よりうまいぞ」

イ「ほんと? やった!」

グ「あんまりおだててやんなよ

  休日のために来るようになるぞ」

店「なに、女っ気のないこの店だ

  かわい子ちゃんが来てくれれば連中も喜ぶだろ」

グ「はん、警備隊に欲情できるとは、太い神経してやがるぜ」

(音・ダーツ×2)

イ「す、すごい……真ん中に2本連続で」

グ「インブルとアウトブルか、鈍ったかねえ」

イ「上手いんですね! 初めて尊敬しました!」

グ「お、おう 一応この店の絶対王者だからな」

店「いや、お前はもう絶対王者じゃないぜ

  そこの黒板でランキングを見てみろ」

グ「な……80点も抜かれてやがる……

  誰だこの記録出したの、俺の知り合いか?」

店「いいや、俺の知り合いですらねえ

  だが、まぐれなんかじゃない、確かな実力者だったぞ」

グ「……わりぃな、この店に入り浸るの、そいつだけじゃすまなそうだ」

店「なあに、ちゃんと料金を払うのなら歓迎だ

  そこの嬢ちゃんに抜かれないよう、せいぜい頑張りな」

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