第4話
その日々の中で、一番増えたのは本だと思う。
あるいは、文字だと思う。
荷造りの際に、連れて行く本は厳選したつもりだった。
それでも、積み上げた猫柄の段ボールのうち3箱は、諦められない本が占めた。
もう読み返さないかもしれない。
新しい部屋の片隅で、開封すらしないかもしれない。
そんな、お守りのような、本達。
古くて、静かな街だった。
すれ違う人、そもそもそれ自体が少ないせいで、住み始めた頃は年長者ばかりの街だと思っていた。
夜が早い。
土地の言葉が濃い。
駅前の商店街の掠れた看板、日差しを橙に遮るアーケード。
古い街の、ひっそりとした冷たさ。
ひと月ほど過ごすうちに、ここには代々暮らしている人達と、古さこそを逆手にとった人達とが混在している事に気付いた。
殊更に拒みはしないけれど、干渉もしない。
とけ込むでも、歩み寄るでもない。
私はその様を、よそ者として眺めていた。
部屋から出た私は、職場の外の私は、どこに属しているのかわからなかった。
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