ねぶりをやむ

ゆきさめ

はじめに



 これは浅井京十郎の日記である。



 睡眠は、我々を侵している。


 眠りというのは我々の脳内を麻痺させ、一時的とはいえ肉体を殺してさえいる。そうはいえないだろうか。いいや、そうであるのだ。眠っている間に私の肉体は一時的な死を迎えており、端の方からぼろぼろと腐っていっているのだと思う。

 眠っているときに私は何かを学べるだろうか、いや、学ぶことは出来ない。眠っているときに私は問題の一つでも片付けることができるだろうか、いいや、出来やしないのだ。記憶の整理がどうしたというのだ、何一つ吸収できないその時間は一体何のためであるというのだ。

 やはり、眠りとは我々には毒であるのだ。緩慢に、だが確実に、我々は侵されている、毒され続けている。

 母親の腹の中に芽生えたときから、あの羊水に浮かべられたときから既にもう、毒されているのだ。もはや取り返しは付かない、失った時間というものは、膨大に過ぎる。生命の誕生そのときから、我々は毒されており、背負った業はなんと深いものであろうか。


 そこで私は考えたのだ。これは名案であるのだ。

 単純である。


 眠ることなど、ないのだ。




(以下は浅井の日記、各項より抜粋したものである)



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