第27話 ・・・お元気で。

騎士に案内された屋敷の中は様々な装飾がなされており持ち主の性格をよく現していた。


派手で自慢げ、リリーナとは正反対だ。目がチカチカする。


「公爵様はこちらです。ですが、今は誰も入れるなと言われておりまして。」


「そう、じゃあ『入らなければ』いいのよね。」


そう言うとリリーナは扉に耳を当てた。そして「ほら、みんなも。」と催促する。


アナログだなぁ。思わずクスッと笑ってしまう。


俺達は困惑する騎士の前で扉に張り付き聞き耳を立てていた。


――――――

「見ての通り野菜の栽培は順調だ。予定通り出荷できる。値段は好きに付けてくれ。代わりに新しい技術を手に入れるのを忘れないように。」


「お任せください。ロバート公爵。」


「よろしい。これでこの1年準備してきたことがようやく実行に移せるわけだ。満田君、君が召喚されてくれたお陰だよ。」


中で公爵と話をしているのは満田らしい。あいつが異世界に召喚されてたなんて。


「店で1日に必要な野菜の種類と量はこれに書いておきました。鍾乳洞の入り口まで運んでもらえれば後はこっちでやります。それで、次に欲しい技術は何かありますか?」


「この前話してくれた銃というものは手に入らないかな?」


「じゅ、銃ですか。えと、ちょっと難しいかもしれません。日本は銃の取り扱いに厳しいですから。」


「ふ~む、そうか。メイザース領へと攻め込む際に銃があれば楽に制圧できると思ったのだが。」


どうやら公爵はクーデターを計画しているらしい。まさか、満田を使って田舎で野菜を売る話がそんなことに繋がっているとは思わなかった。


それを聞いたユイが「姫様!聞き捨てなりません。」と言う。リリーナも真剣な顔で頷いた。


そして制止する騎士を振り切って部屋の扉を勢いよく開けるのだった。



バンッ!!!(扉を開ける音)



「「!?」」


公爵は「誰だ!」と怒って叫びながら振り返った。しかし、部屋に入って来た人物が誰かわかると怒りを忘れ驚愕する。


「ひ、姫様・・・。まさか、生きてらっしゃったのですか。それにユイ殿も。・・・皆で探しておりましたよ。いやぁ、ご無事でよかった。」


公爵は露骨に愛想笑いを浮かべ、手をすり合わせる。明らかに喜んでいるフリだ。そんな公爵を見てリリーナは首を振る。


「私のことよりも、あなたが先ほど言っていた『メイザース領へ攻め込む』という話を詳しく聞きたいですね。」


一瞬キョトンとした公爵だったが、すぐに肩を震わせ笑い出した。


「ふ、ふはは。・・・そのままの意味ですよ。メイザース家を倒して私が頂点に立つ。いけませんか?」


「公爵様!馬鹿なことはおやめください。」


ユイが叫ぶ。しかし公爵は答えない。横では満田がそれをニタニタしながら見ていた。


「おい満田。お前、そんなことに肩入れしていたのかよ。」


公爵が満田に向かって「ご友人ですか?」と問いかける。あいつは「ええ、昔なじみです。」と答えた。


「俺はこの世界で公爵から地位と名誉、金をもらって楽しく過ごすのさ。」


・・・!?馬鹿野郎、お前の身勝手な行動で農家はみんな困ってるんだぞ。婆ちゃんなんか農業やめようとしたんだ。


「満田君は賢者と呼ばれるにふさわしい。私の考えを理解しこの世界にない知識と技術で富や力を与えてくれる。」


公爵は満田の肩をポンと叩く。満田は満足気だ。


「ロバート公爵、あなたは異世界の協力者と行く方法を手に入れた。それを利用してこの国を奪おうと言うのですね?このイロリナを手に入れたのも民のために開発する気はなく、そのためだった。」


「その通り。あなたがユイ殿を助けた時から思いついた計画です。」


ユイはカァっと顔を赤らめ下を向く。自分が利用されていたことへの怒りからか震えているのがわかった。


「き、貴様ぁ。」


「おっと、剣は抜かない方がいい。」


公爵がパチンッと指を鳴らすとどこに隠れていたのか騎士たちがワラワラと現れ俺達を取り囲む。


「くっ。」


多勢に無勢過ぎてユイは行動に移せない。彼女はチラッとプリムを見たが「急には無理。」と小声で返事をした。


「私は暴力は嫌いです。フェアな話し合いでないとね。」


「・・・どの口がそんなこと言うのかしら。」


「姫様、どうか私に協力してもらえませんか?あなたに裏方として働いてもらえれば心強い。幸い今は行方不明になっていることですし。」


リリーナは首を振る。公爵は「残念です。」と言った。


「ならば全員拘留させてもらいますよ?邪魔はされたくないものでね。」


公爵は兵士に「連れて行け。」と命令する。その時、満田が「待ってください!」と叫んだ。


「公爵様、その男とガキは任せてもらえませんか?こちらの世界の人間ですので。」


満田が俺を助けるメリットは何だ?奴に善意なんかあるはずがない。それにプリムが俺達の世界の人間だと勘違いしている。


「ふむ。」と考え込む公爵。そして満田に向かって言った。


「いいでしょう。こちらの世界に干渉しないよう念押ししておいて欲しいですな。」


「もちろんです。さぁ、黒崎、とそこのガキ。帰るぞ。」


ここで帰っていいはずがない。ためらう俺を満田が「早くしろ。」と催促する。


俺は困り果ててリリーナを見た。彼女はじっとこちらを見て、そしてニコッと笑った。


「雄太さん。今までありがとう。・・・お元気で。」


――――――

鍾乳洞の来た道を満田の後ろについて歩いていた。リリーナが最後に言ったことと、その時の顔を思い出しながら。


「何であんなところまで来るんだよ。つけたのか?まったく・・・。俺に感謝するんだな。あのままだとこっちに帰って来れなかったぞ。」


確かにこいつがいなかったらここに戻って来れなかったかもしれない。


「どうしてこの子も連れて来たんだ?」


「そのガキはお前の親戚だろ?服、お前が昔着てたやつだし。」


こいつプリムが俺のパーカーとスーツのジャケットを着ているのを見て親戚と勘違いしたんだな。


「・・・なぁ、黒崎。お前、俺を手伝わないか?」


満田は立ち止まると急にそんなことを言い出した。


「これから公爵の事業は拡大する。それに乗るだけで莫大な金が手に入るんだ。つまんない農業や仕事をするよりいいだろ?面白おかしく暮そうぜ。」


「・・・。」


俺は答えなかった。しびれを切らした満田は「ちっ。」と舌打ちをすると再び歩き出す。


鍾乳洞を出て俺達の世界に戻ると、辺りは暗く夜になっていた。


「おい、満田。」


満田は不機嫌そうな顔でこちらを向く。そんな奴の前に俺は右手を差し出した。


「・・・。やる気になったんだな。」


満田はニヤッと笑い、握手をするため自分の手を出す。


その瞬間、俺は奴の手を思いっきり引っ張りその場に転ばせた。


「ぐぅ。な、何しやがる!」


怒りで顔を真っ赤にした満田が叫ぶ。さっきのでわかった。こいつは俺を利用するため公爵から助けたんだ。善意なんてこれっぽっちもない。


つまんない農業や仕事だと?そんなこと、ここ最近思った事ねぇよ!


「俺が面白おかしく暮したい相手は決まってる!!」


俺は拳を思いっきり振りかざした。


――――――

「この洞窟の先が異世界で!」


「満田と公爵がそこで悪だくみしてて!」


「リリーナさんとユイさんが捕まっただって!?」


満田をボコボコにして気絶させたところでようやく牛田、玉崎、鳥飼と連絡が取れた。鍾乳洞に呼び寄せると、これまでに起こったことを説明する。3人は自分たちが遅れてしまったことを悔やんだ。


「この車がもう少し早く手配できていれば。2人を守れたかもしれないのに。」


そう言うミートリオの後ろには大型のトラックが止まっている。荷台には巨大な檻が付いており、中で何か巨大な生き物の影が動いていた。


「それで、これからどうする黒崎。」


俺は屋敷を出る前のことをもう一度思い出す。


「・・・お元気で。」とリリーナは言った。しかし、彼女の『顔』を見た俺はその言葉が本心じゃないことはわかっている。


「リリーナはさ、思っていることが顔に出るんだ。その顔が『雄太さんが助けに来るのを信じています』っと言っていた。俺は、俺は大切な『家族、仲間』を助けに行く!」


「「「俺達もだ!農家を怒らせると怖いってこと思い知らせてやろうぜ!」」」


「ボクもボクも!本気出すから!!」


俺達は自然と円陣を組んだ。可愛い女の子が1人いるとはいえ、30を超えたオッサンが4人もいると少し暑苦しい。


「・・・それで、警備している兵隊をどうやって切り抜ける?」


相手は武装した兵士たちだ。気合だけではどうにもならない。


「まずはこれを突入させようか。」


牛田は大型トラックを指差しニヤリと笑った。

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