第13話 知っていることを話してもらいましょうか。

・・・何かしら、雨?


リリーナは窓に打ち付ける雨の音で目を覚ました。だが、目を開けても視界は真っ暗で何も見えない。手や足、指先などは動かせる感覚はあった。視力以外に異常はないと認識する。


あの水晶から飛び出た黒い光に飲み込まれてしまったのでしょうか?


「クラウス、ユイ、プリム。無事ですか?返事をしてください。」


一瞬、自分以外がいなくなってしまったかもしれないという不安にかられたリリーナだったが、それはすぐ杞憂に終わる。


「はい。姫様。」


「ボクも大丈夫、あいたっ!」


クラウスとプリムの声が聞こえたかと思うと、暗闇の中でカンッという金属音がした。


「こらっ!プリム、変なところ触ろうとするな。」


「むー、甲冑を着てるなんてズルいユイ。」


どうやらユイも無事のようですね。でも、こう何も見えないと不便すぎます。


「プリム、明かりをお願いします。」


「はい、は~い。えいっ!」


ポンッと音を立てて光を放つ球体がプリムの手から現れる。それは天井付近まで浮かんでいくと輝きを増して部屋全体を明るく照らした。


これでようやくみんなの顔を確認することができますね。


「姫様!ご無事で何よりです。」


少し離れたところにいた3人がリリーナの所へ駆け寄って来る。


「水晶から出たあの黒い光、あれのせいでしょうか。」


「う~ん、よくわかんない。リリーナ様、その水晶はどこにありますか?」


「え?・・・そう言えば。」


賢者の水晶は影も形もなくなっていた。周囲を見回してもそれらしきものはない。


「確かに持っていたはずなのに。」


「なくなっちゃったね。これじゃ何が起きたか全然わかんないや。えへへ。」


あっけらかんと笑うプリム。それを見たユイは彼女の頭を手の平でペシッと叩いた。


「のんきに笑うな。お前の作った魔導具だろ。」


「何すんだよ!?叩かなくてもいいじゃないか、この暴力女!」


「お前のこそ王立魔術学院をその歳で卒業した天才って嘘じゃないか?ちゃんとした魔導具も作れないで。」


あらあら、猫たちがじゃれ合って可愛いこと。面白いから黙って見てましょうか。


ユイとプリムはお互いの頬を引っ張り合う。それを見ながらリリーナはクスクスと笑っていた。


―――――

「姫様、ちょっとこちらへ。」


窓際に立ちながらクラウスが手招きをしてくる。近くまで行くと外を見るように促された。


「おかしいと思いませんか?」


「・・・真っ暗ですね。今は夜なんでしょうか。日が落ちるにはまだ時間があったはずですが。」


「仮に夜になってしまったとしても変です。明かりがまったくありません。」


「あっ・・・。」


リリーナの屋敷は城下町の一角にあった。周囲には貴族たちの住む住宅街もある。そこで生活する人、働く人は多くいて、街を警護する騎士もいる。夜中と言えども明かりがまったくないということは考えられなかった。


「やはり、ここは水晶から出た黒い光の中なのでしょうか。」


「それは何とも・・・、ん?あの光は。」


クラウスは窓から見える暗闇に突如現れた2つの丸い光を指差した。それは最初小さかったが、次第に大きくなっていく。そしてついには屋敷の前に止まった。


光は白くて四角い箱の前面にある目から出ている。


「あれが何だかわかりますか?クラウス。」


「私も初めて見る物です。・・・姫様、そんな『ちょっと面白い展開じゃない?』みたいな顔はおやめください。」


「・・・気を付けましょう。」


いがみ合っていたユイとプリムの2人もいつの間にか窓の傍に来ている。


すると、箱の一部が突然カチャッと開き、中から2人の人間が降りて来るのだった。


―――――

「雄太、あたしは夢でも見てんのかい?」


「たぶん、夢じゃない。俺も見てるし。家が、あのボロ家がなんか立派になって金持ちの家みたいになってる!?」


「ボロは余計だよ!でも、倉庫はそのままだよ。」


もともとここには年季の入った木造の平屋があった。それが今やレンガや高級そうな石を使った屋敷に様変わりしている。


「・・・とりあえず誰かいなか聞いてみようよ。あそこ、明かりが付いているし誰かいるんじゃないかな

。」


「ドッキリか何かなのかね。まったく困ったもんだ。」


2人は屋敷の玄関へと向かって来た。


―――――

「姫様、私が捕らえてまいります。」


「ユイ。できる限りケガをさせないようにこの部屋へ連れて来てください。」


「相手の出方によりますね。抵抗されれば最悪この剣で。プリム、お前も来い。」


「うん・・・。でも魔法、使えるには使えるけど。何か変な感じなんだよね。マナが薄いというか、よくわかんないんだけど。」


「それでもないよりはましだ。いくぞ!」


ユイとプリムは部屋を飛び出して行く。


「姫様、とても悪そうな顔をしていますよ。何をお考えです?」


「・・・内緒です。」


リリーナはフフッと微笑んだ。


―――――

「・・・やはり、抵抗されましたか。」


ユイは執務室に連れて来られた2人を見る。1人は老婆でこちらはケガなどしていなかい。しかし、もう1人の男は見るも無残な姿で生きているかどうか怪しかった。


「はい、いえ、その・・・。」


なぜかユイの態度に歯切れがない。プリムが右手を額に当てて敬礼するポーズをしながら言う。


「走って玄関へ行った時、ユイがつまづいちゃったんだ。その時、ちょうど扉が開いて、その男の人に思いっきり抱き着いたんだよ。その後はもう見てられなかった。」


ユイは「すみません。」と言いながら縮こまる。


なるほど、あの悲鳴はそういう理由でしたか。この人にとっては災難でしたね。男に過剰な防衛反応を起こす女が胸に飛び込んで来るなんて。ま、一瞬は幸せな気持ちになれたでしょう。


リリーナは改めて2人を見る。男はボロボロでわからなかったが、老婆のほうは見たことのない不思議な服を着ており、いたるところが泥で汚れている。


乞食・・・?にしては血色は良さそうです。


まぁ、お話しすればわかるでしょう。


「オホンッ、私はリリーナ=メイザースと申します。この屋敷の主です。こちらは執事のクラウス、そして騎士のユイ、魔法使いのプリムです。あなた方はこの付近、私の領地の人間でしょうか?それとも他の領地の・・・?」


老婆はあからさまに怪訝な顔をした。


「あんたら何を言ってんだ、騎士や魔法使いとか。テレビの見過ぎじゃないのかい。ふざけてるんだったら早くやめてくれ。」


「ご老人、口のきき方には注意されたほうがいい。あなたは誰と話をしているかわかっていない。この人はこの国を治めるメイザース家の姫君だ。」


「そうそう、リリーナ様は優しいけど怒ると怖いよ。」


ユイとプリムが注意をするが老婆はまったく物怖じしなかった。


「メイザースとかリリーナとか聞いたこともないよ。ここは日本っていう国で、今いるのは小さな島。ここにはあたしの家があったはずなんだ。さぁ、さっさと返しとくれ!」


「な、なんと。」 「まさか!」 「・・・。」


クラウスとユイが驚きの声を上げる。プリムは『日本』という単語に反応したかと思うと下を向いて黙った。


おや?これは、調べてみる必要がありますね。


「クラウス、ユイ。外に出て近くの様子を見てきてもらえませんか?暗くて雨も降っていますから慎重に。」


「承知しました。」 「了解しました。」


2人は頭を下げると急いで部屋を出て行く。


「・・・さて、プリム、知っていることを話してもらいましょうか。」


「エ、エヘヘ。さすがリリーナ様。わかっちゃった?」


プリムは頭をポリポリとかくと恥ずかしそうに喋り始めた。

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