第10話 とても美味しいです。
俺は両脇を玉崎と鳥飼に抱えられ砂利道に正座させられる。牛田が一段高い岩の上に立って見下ろした。まるでテレビで見た時代劇のお白洲のようだ。
「お奉行様、罪人をここにひっ捕らえてございます。」
「うむ、ご苦労。この者の犯した罪はいかに。」
「青年団で決めた『掟』を破りました。みんなで誓い合った約束を。」
掟。それはこのまま一生独身ではないかと焦った青年団の男たちが定めたもので内容はこうだ。
『①俺達はともに助け合う。
②俺達はともに分かち合う。
③1人だけ勝ち組にならない。
※仕事もプライベートも!!』
「黒崎、俺達は店であったことを牛田から聞いて心配して来たんだぞ。」
「満田の野郎本当に頭にくるよな。俺らもやられてるから気持ちはよくわかるよ。でも、それなのに。」
「・・・逆にお前に苦しめられるとは思わなかったよ!プリムちゃんは遠い親戚って言ったな。じゃあ、今一緒にいる2人の女の子は何なんだ。ええ?」
まずい。半端なく怒っている。リリーナたちとの関係をうまく説明できないと、俺は掟破りとして処刑されてしまうだろう。
「あ、あの!ちょっと落ち着いてください。」
どう話をしようか迷っていると、リリーナが間に割って入って来た。彼女は近くに来ると牛田たちの顔を1人1人見て、ニコッと笑顔を送る。それを見たやつらは「は、はい・・・。」と平常心を少し取り戻していた。
だが、俺の心には不安しかなかった。
「聞いてください。やましいところはなにもありません。私たちは雄太さんの所で居候として、一緒に暮らしているだけです。」
「いいい、居候!?」 「一緒に暮らして!?」 「雄太『さん』!?」
火に油だった。
あぁ、もう!そんな『正直に言ったのに何で?』みたいな顔をしないでください。わかってやっていますよね。絶対、自分が面白くなりそうだから事態を悪化させるような言い方をしましたよね!?
「証言が得られた。」
「「掟破りには罰を!」」
3人の男たちは友達に出していいものとは思えないパンチやキックを繰り出してくる。
「お、お奉行様!待ってください。俺は被害者です。こいつらが勝手にやって来て、無理やり住み着いたんだ。約束を裏切るようなことは一切していない!!」
俺も殺されないため必死だ。
「なに?・・・そんな、うらやま、じゃなかった都合のいいことが起きるか!」
「お、起きたんだよ!」
「嘘つけ!!」
「お前の言うことは信用できない。か、彼女に聞く。・・・あ、あの、この男が言っていることは本当でしょうか?
牛田はリリーナに話しかけるがその目をまともに見ることはできない。うぶな奴だ。
「それは・・・本当です。私たちに予期せぬ事態が起き、ここへやって来てしまいました。右も左もわからない私たちのお世話を雄太さんとお婆様はしてくれたのです。」
それを聞いてヒソヒソ話しを始める牛田たち。
「どういうことだ?」
「わからん。女の子たちがここに来たってどこから来たんだ。」
「詳しい話を聞いてみるしかないんじゃないか?」
一応何かの結論が出たのだろう、頷き合っている。そして、牛田は言った。
「黒崎、何がどうなっているのか説明しろ。掟破りかどうかはそれから考えてやる。」
ホッ、どうやら話し合う機会はもらえたようだ。まったく、こうなることも予想できたからリリーナ達と会わせたくなかったのに。
「とりあえず、中に入ってから話そう。もう暗くなってるし。お前らも飯食べてけば?」
「そうだな。あ、お前を励まそうと思って持って来たものがあったんだ。なぁ2人とも。」
牛田は車のトランクを開けて、玉崎と鳥飼が大きめの発泡スチロールを持つ。
「酒でも飲みながら美味い物食べれば元気が出ると思ってさ。食べながらでいいからちゃんと話せよ。」
女が絡まなければいい奴らなんだよなぁ。俺は自分から掟を破ったつもりはない。そこをわかってもらわないと。
―――――
「これは・・・、なかなかのお肉ですね。」
屋敷に入るとテーブルの上に3種類の肉が並べられる。クラウスはそれを見て唸っていた。
「これは和牛のモモ肉、それもメスのもの。あえて3等級の格付けを選んだ。赤身の中に脂身がほどよく入っているから。くどくなくて食べやすいよ。」
牛田に玉崎も続く。
「俺は豚のバラ肉だ。1頭分持ってきたから10kgはあるぜ。」
「おいおい、メインディッシュはこの鶏肉だろ。1羽丸ごとだ。うちのはエサをしっかり食わせて太らせてるからボリューム満点さ。」
「どれもこれも最上の一品とお見受けします。私も全力で調理させてもらいますので。」
そう言ってクラウスは礼儀正しく頭を下げた。ミートリオの3人はそれを不思議そうに見る。
「この人、誰だっけ?黒崎のじいちゃん?」
そうか、こいつらクラウスさんに会うのは初めてだっけ。・・・と言うよりみんなの紹介もしてなかった。
「違う違う。爺ちゃんは大分前に死んじゃったよ。この人はクラウスさん。家事を何でもこなすスーパー執事。紹介が遅れたけどこのピンクの髪の子がリリーナさん。このちっこいのがプリム。ちょっと離れたところに立っている金色の髪の子がユイさんだ。」
それぞれの名前を教えるとミートリオはそれぞれ「どうも。」とか「よ、よろしく。」とかぎこちなく挨拶をした。やはり女性に対する免疫が少ないらしい。
牛田が耳元に手を当てながらボソボソと聞いてくる。
「な、なあ。この女の子たちさ、俺らより年下だよな?」
息がかかって気持ち悪い。お願い、普通に喋って。
「そうだよ。リリーナさんが16で、ユイさんが21。プリムは12だ。」
「なんでお前、『さん』付けなの?それよりも、俺達のことも早く紹介しろよ。」
「うるさいな。まったく。あー、みんな。この牛のように体がでかいのが牛田。こっち豚みたいな鼻をした玉崎、背が高くて頭がトサカ (モヒカン)なのは鳥飼。」
「おい、なんだか適当過ぎないか?」
「気のせいだろ。」
的確な表現だと俺は思うがね。
「オジさんたち、よろしく!」
プリムは元気よく手を振る。男たちはそれを見てデレッとなった。
「姫様、お話は食事の時にでも。私が用意をしている間に。」
「ではクラウスお任せします。すみませんみなさん、お話は後ほど。少し席を外させてもらいます。」
「ど、どこか行かれるのですか?」
牛・豚・鶏の男たちは寂しそうだ。
「風呂に決まっているだろ。こちとら畑から帰ってそのまんまなんだよ。」
『風呂!?』
彼らの目が一斉に光ってこちらを見る。
「ままま、まさか黒崎、普段一緒に入っているとか言わないだろうな!?」
「ば、馬鹿!そんなわけないだろ。俺はここでお前らと一緒にいるよ。」
そんなことしたら殺されてしまうだろ、ユイに。
・・・うっかり入っちゃったことはあるけど。あれは事故だった。うん。
ふと彼女を見るとこちらを睨みつけていた。
さっきからずっとあんな感じなんだよなぁ。まったく会話に入って来ないし、距離取ってるし。やっぱり男が増えて怒っているんだろうなぁ。後が怖い。
「では一旦失礼します。」
「「「ごゆっくり~。」」」
男たちはだらしない目つきで女性陣を見送った。
―――――
牛モモ肉のローストビーフから出るジューシーな香りが部屋に充満する。豚バラはトロトロになるまで煮込んで鶏肉は香草と一緒に丸焼きにしてあった。
畑で採れた野菜が水洗いして切っただけで置かれている。素材のままの味を楽しんでもらおうとドレッシングはかかっていない。
そして、山盛りとなったウニの刺身が中央に置かれ、ウニを使用したクリームパスタ、グラタンが1人1人に配られた。
「美味しそう!早く、早く食べよう!」
プリムがヨダレを垂らす。婆ちゃんがそれを嬉しそうに見ながら「いただきます。」と言うと、みんなも続けて言った。
『いただきま~す。』
男たちとビールで乾杯して、ウニを箸でつかめるだけつかむ。それに醤油をちょんとつけると一気に頬張った。
「んん!?うまい!」
身が口の中に入った瞬間溶けて甘みが溢れ出す。
「ああ、なんと素晴らしい味でしょう。あちらの世界で食べたどんな料理よりも美味しいです。そう思いませんか?ユイ。」
「・・・はい。とても美味しいです。」
ユイも満足気だ。しかし、普段よりも男が多いためか少し緊張しているようにも見える。
「このお肉も美味しいよ!」
プリムは口を大きく開けてステーキにかぶりつく。それを見たミートリオはこれ以上ないくらいに喜んだ。
「クラウスさんの調理方法がいいんだろ。」
カカッ。
俺の目の前にナイフとフォークが計6本突き刺さる。危ないな、ケガするじゃないか。
「おいおい、黒崎さんよぉ。そろそろリリーナさんたちがここに居候することになった『事情』ってやつを教えろよ。」
「お前が『掟』を破ってないか判断しないといけないしな。」
「納得できなかったら明日の朝一で農場に連れて行くからな。」
こいつらの目、本気だ。落ち着け、落ち着いて説明したら大丈夫だ。
「わかった。じゃあ、食べながらでいいから聞いてくれ。あれは、先月のこと・・・。」
「私たちはいつものように1日の執務を終えようとしていました。」
って、リリーナさん!?どうしてあなたが喋り出すの?
彼女は俺の話を遮ってあの日のことを語り始めた。
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