第7話依頼への手助け
この様な場所に案内されると、ディックは自分が来客として丁重に扱われているのだと感じた。
その事と共に、自分が置かれている立場も改めて再認識する。まだ自分の依頼は聞き届けられていない。もし、アルビオンの艦長に断られてしまったらどうしたものか。これだけ素晴らしい
自分たちを救える可能性があるアルビオンの様な発掘屋はまず、いないだろう。この機会を逃してしまえば二度とチャンスは訪れないと言っても過言ではない。
そのためには、何としてでも依頼を引き受けて貰わなくてはならない。最悪自分の命を売っても良い。だが、彼らにとって自分の命は依頼を引き受けて貰える程につり合う価値があるのか。そう心の中で自問自答をするディックの表情は、次第に
その表情を見て、ディックが不安に駆られていることを感じ取ったラルフは声をかける。
「取りあえずソファーに腰かけてくれ。艦長が帰って来るまで、来客に突っ立たれていては俺が困る」
棒立ちするディックに声を掛け、座るように促す。彼は少し慌てながらも来客用のソファーに腰をかける。とりあえず緊張を取り除くことから始めようと思ったラルフは、気さくに話しかけることにした。
「さすがに酒場の商談部屋とは違い、ゆったり寛げるだろ?」
「ん、あぁ…。確かに部屋は清潔だし空調も適温で居心地が良いよ。何ならここに住みたいぐらいだ」
「それは良かった。この客室(ゲストルーム)は来客に快適に過ごしてもらうために配慮して整えているから、その言葉を艦長が聞いたらきっと喜ぶよ」
「そうなのかい? だとしたら、あんたの艦長によろしく言っといてくれ。そうすれば俺の心象も良くなるかもしれないし」
「そうだな、素晴らしく快適に過ごせたと伝えておくよ」
ラルフはディックの軽い冗談をそう流すと、次の言葉を投げかける。
「やはり今も遺跡に残してきた仲間が無事か心配で、気が気じゃないか? 顔がだんだん強張ってきているぞ」
「そりゃ心配さ……。俺たちナイトフロックスのメンバーは家族同然みたいなもんだ。それが
言いながらディックは、心の底からメンバーの無事を願った。必ずアルビオンの力を借りて助けに行かなければ、とてもじゃないが死んでいった仲間に顔向けできない。
「だから、俺は依頼を受けて貰えるのなら何だってするさ! あんたらに命を売ったって良い。嘘じゃないぜ!」
ラルフを見つめてそう語るディックの眼は真剣そのものだった。
それほどまでに仲間を想える言葉を話すディックに、ラルフもどうにかして協力してやりたい気持ちになる。
だが、依頼を受けるか否かは艦長にある。アルビオンの
現時点で、目の前の男のために自分ができる最大限の協力は何か。ラルフは思いを巡らせ、そしてある一つの結論に至る。
「ならば、少しでも艦長に依頼を引き受けて貰えるよう、一つ考えがある。聞いてくれるか?」
「あぁ! 何でも言ってくれ」
ディックの了承を得てラルフは早速、さきほど思いついたことを話し始める。
「なに、簡単な話だ。今から二人で明確な
艦長のおおよその人柄と、アルビオンが発掘を行う上での艦長独自の
「つまり、依頼を引き受けやすくするよう、徹底的に救助計画で生じるデメリットやリスクを回避するための策を講じていけばいい。そうすれば、ただ依頼を受けて貰えるよう艦長に懇願するより、幾分かは良くなる筈だ。それに依頼を受けて貰えた後、速やかに行動に移る事も可能だ。メリットについては正直、発掘した遺物次第だから増やしようは無いから諦めるしかないが、遺跡の発掘権を丸ごとアルビオンに譲渡する形にした方がいいな」
簡潔に述べると、ラルフはディックを見据える。
ディックは言われたことを反芻しながら考えるが、具体的な救助計画とはどうすれば良いのか見当もつかなかった。
何せ本業は発掘屋だ。軍隊と衝突する状況を想定して遺跡に向かい、発掘作業を行う。その上でリスクを避ける方法を考えるなど、到底想像もしえない。そんな不甲斐無い己に嫌気がしたが、ラルフに助言を求めるしか術がなかった。
「すまない、そう言われても俺にはその計画を考えるためには、どうすれば良いかさっぱりだ……」
正直に自分が力になれないことを告げると、ラルフはそんなディックに対し優しく微笑みを返すのであった。
「大丈夫、その計画を立案するのは俺の役目だ。ディックにはただ、今回起きた事件の経緯と発見した遺跡の場所などの情報を詳細に教えてくれればいい」
「そんな事だけでいいのか?」
「あぁ、それだけでいい。そういった情報が計画を立てる上でとても重要なのさ」
「なら、分かっている事全部を話すから、是非役立てて欲しい!」
「よし、その意気だ。じゃぁまずは、どうして今回の発掘をモルチアナ緩衝地帯に決めたのか、その事から話しを聞かせてくれ」
ラルフは
やがて、ナイトフロックス襲撃事件のあらましと救助計画のとるべき行動がはっきりしていく。話をまとめると次の通りであった。
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