第103話
「……なんというか、個性的な男性ですね」
しばらくフリーズしていたレムレスは、ようやく再起動するとそんな事を言う。
「あー、レムレス……」
「何ですか?」
「ちなみになんだけどな……リリスの種族は、サキュバスだ」
「「「はぁ!?」」」
俺の言葉に、レムレスだけでなくディオン達も目を見開いて盛大に驚く。
まぁ、普通は驚くよな。俺だって、最初聞いた時くそビビったもん。
この面でサキュバスだぞ? 驚かない方がおかしい。
「えーと……すまない、ムクロ君。少し、聞きたい事があるのだが……」
驚愕の事実からいち早く復活したディオンがこめかみを押さえながらそう切り出してくる。
「……どうぞ」
俺は、大体の予想がつきつつもディオンに先を促した。
「サキュバスって……あれだろう? ほら、その……だ、男性のせ、精を吸う淫魔……」
ディオンは、顔を茹蛸のように真っ赤にしながら尋ねてくる。
……うん、顔を真っ赤にしながら恥ずかしそうにする女の子っていいよね。
今、ディオンは男だけど見た目は変わらないからセーフ。むしろ、アリだな。
って、そんな事を考えている場合ではないな。
「とりあえず、その認識では間違ってないかな。……ディオン達はインキュバスは知っているか?」
「確か、サキュバスの逆で女性を襲う淫魔でしたよね」
俺の質問にジルが答えたので、俺はコクリと頷く。
「実はな、インキュバスとサキュバスは同じなんだよ」
「なんだって?」
ディオン達が信じられないという顔をするので、俺は説明をしてやる。
地球でも、実は似たような説があるのだが……サキュバスとインキュバスは実は同一の存在で性別が無いとされている。
自分達で繁殖する事ができないから、サキュバスとなって男から精を奪い、インキュバスとなって人間の女性を孕ませるとも言われている。
実際はどうかは分からんが……まぁ、不貞の際の言い訳として当時はよく使われていたらしい。
んで、この世界では実際にその説が現実となっているというわけだ。
つまり、今目の前に居るスク水髭面マッチョはサキュバスでありインキュバス。
性別の無い種族なのである。
事実、ぴっちりとした水着を装着しているにもかかわらず股間はもっこりしていない。
どうせなら、そのままサキュバスらしく美女寄りになってほしかった。
「「「……」」」
俺が説明し終えると、全員が全員絶句している。
ちなみに、この説明をされた人は全員同じリアクションをする。
「なんというか……凄いですね。マスター達の言っていたことがよく分かりました」
「うん……なんか、想像よりすごかったよ、お兄ちゃん……」
「だろう?」
理解してもらえたようで何よりである。
「ということで、待たせたな。リリス」
「ううん、別にかまわないわよ? 私の事をよく知ってもらった方が仲良くできそうだしね?」
リリスは首を横に振りながらそう答えると、ばちこーんとウィンクをする。
……これが妖艶な美女だったらなぁ、とつくづく思う。
「……まあ、とりあえずだ。どうしてこんな事をしたか聞かせてもらっていいか?」
「こんな事……っていうのは?」
「しらばっくれるな、リリス。貴様、本当は何の事を聞いているか分かっているのだろう?」
顎に人差し指を添えながらわざとらしく首を傾げるリリスに対し、師匠が苛立ちながら喋る。
師匠としても、いつまでもリリスと同じ空間に居たくないんだろうな。
その気持ちは痛いほどによく分かる。
「ふふ、カーミラっちったら相変わらず短気ねぇ。まぁ、憤怒を司っているから当たり前なんだけど」
一方、リリスは師匠の苛立ちなどどこ吹く風でニコニコ笑いながら軽く受け流す。
「そうね……なんでこんな事をしたかっていうと、単純にアレよ。自分の欲望に忠実になったってだけよ。そもそも、私ってサキュバスなのに人間界には不干渉っていうのが無理があったのよ」
「あくまで過度にって話だったろ? お前のこれは、明らかに常軌を逸しているんだっつうの。一体、何があったんだ? お前は、ここまでする奴じゃなかっただろ?」
こいつは、確かに色々濃いしできればあまりお近づきになりたくない奴ではあるが、少なくともこんな風に大勢に迷惑をかけるような奴ではなかった。
一体、しばらく会わない内に何があったのだろうか?
「だから言ったでしょ? 今までは抑えてただけで、これが本来の私なの。たかが人間の為に自分を抑える必要は無い。タマちゃんがそう教えてくれたのよ」
タマちゃん……?
「って、もしかしてタマモの事か?」
「ええ。ある日、彼が尋ねてきてね、私にこう言ったの。タマちゃんの仲間になれば、私のやりたい事をしていいって……」
「なんだと!? 貴様、まさか……」
リリスの言葉を聞いて師匠が叫ぶと、彼女は背筋が凍りそうなほどの笑みを浮かべる。
「ええ……私は
……なんていうことだ。
タマモだけじゃなくて、まさかリリスまでがそっち側になっていたとは。
こんな事がもし公になれば、今までは形だけだった賞金首もいよいよ本格的になるかもしれない。
「私はね、男が大好きなの。だから、手始めにこの村を手中に収めようと思った訳。女は要らないから、私の呪いで男になってもらったわ。男になる時は、年齢や体型はランダムだけど、それがいいのよね」
リリスは、恍惚の笑みを浮かべながらそう説明する。
「ムクロっち達も私のハーレムに入らない? ムクロっちとカーミラっちなら、特別待遇よ?」
「「断る!」」
俺と師匠は、同時に異口同音で叫ぶ。
こいつのハーレムに入るとか、考えただけでおぞましい。
そんな事になるんだったら、さっさと死を選ぶ。
「あら、残念。じゃあ、仲間は? タマちゃんも、貴方達は仲間に欲しいって言ってたのよ。だから、皆仲良くやりたい放題やりましょうよ。仲間になれば、カーミラっちは好きなだけ暴れられるし、ムクロっちは好きなだけ惰眠が貪れるのよ?」
「……」
「ちょ、ちょっとムクロ君?」
押し黙る俺に対し、ディオンが不安そうな顔でこちらを見てくる。
「マスター? もしかして、少し揺らいでませんか?」
「お兄ちゃん……」
「いや、違うぞ? ちょっといいなとかそんな事はこれっぽっちも思ってないぞ?」
好きなだけ惰眠を貪りたいとか……八割くらいしか思ってないぞ?
なにやら疑惑に満ちた目でこちらを見てくるレムレスとアグナに対し、俺は必死に弁解する。
二人に信じてもらえなかったら、俺は心が折れてしまうかもしれない。
「ふふ、ムクロっちは少し揺らいだみたいだけど、カーミラっちはどうなの?」
「……ふん、断るに決まっておろうが」
「あら、意外ね。カーミラっちなら、乗りそうだと思ったのに」
正直、そればっかりは俺もリリスに同意だった。
何よりも戦う事が好きな師匠なら、戦いの場を提供すると言われれば一も二も無く話に乗りそうだったのに。
「馬鹿者。他人にお膳立てされたものなど興味ないわ。自分から探してこそ、価値があるんじゃ」
あぁ……なるほど。その考えはある意味師匠らしいと言えば師匠らしいな。
「という事で、ワシは貴様らの仲間にはならん。むしろ、貴様らと敵対した方が強い奴らと戦えそうじゃしな」
「うぅん、残念。……ムクロっちは?」
「俺は……な、仲間に……な、ならない!」
俺はしばらく葛藤しつつも、そう答える。
別に、後ろから突き刺さる視線が痛いからそう答えとかではない。
あくまで俺の中の正義に従っただけだ。
「そう、残念ね……」
俺と師匠の答えを聞いて、リリスはさほど残念じゃなさそうな感じに溜め息を吐く。
「それじゃ、二人には無理矢理私のハーレムになってもらおうかしら……ね」
リリスは、舌なめずりをしながらこちらを見てそう言い放つのだった。
……うん、めっちゃ逃げたい!
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