第32話

 色々バタバタしていたが何とか落ち着き、俺達は再び生徒会室へと集まっていた。

 ここは、アヤメが許可をしないと入れないし、結界もあるから盗聴される心配もないという。

 室内には、俺とレムレス、俺の腕の中でスヤスヤと眠っているアグナ。そして、アルバにアヤメ、アグナ(大)。中央にはウェルミスと結構な人数が居た。


「さて……ウェルミスには、このまま組織に何食わぬ顔で戻ってほしいと思ってる」


「えぇー、私はご主人様と一緒に居たいわぁ……」


 俺の言葉に、ウェルミスは無駄に体をくねらせながら不満を漏らす。

 ちなみにご主人様というのは俺の事である。

 別に、契約とかした訳では無いがウェルミスが勝手に呼び始めたのだ。

 

「何がご主人様ですか。貴女みたいな歩く十八禁がマスターと一緒に居られるわけないでしょう? アグナさんの情操教育にも悪いです」


「あらあら、流石は魔法学園ねぇ。壁が喋るだなんて不思議だわぁ」


「あ?」


「お?」


「はいはい、二人共喧嘩すんな」


 何やらバチバチと聞こえそうな程睨み合う二人を宥める。

 まったく……どうしてこの二人はこんなに仲が悪いんだか。


「ていうか、ウェルミス。お前、レムレスの事も好みだとか言ってなかったか?」


 ウェルミスがアンデッド大好き人間だと発覚したので、あの時の発言を理解できたのだが、そうなると今レムレスを毛嫌いしている理由は分からない。


「そうなんだけどぉ……それとこれとは別っていうかぁ……ねぇ?」


 いや、「ねぇ?」とか俺に聞かれても困るんだが。


「そういう修羅場は後でやってくれる? そんな事よりもムクロ、さっさと話しなさいよ」


 俺達のやりとりを見て、若干イライラしているアヤメが言う。

 本体はかなり年寄りみたいだし、更年期障害だろうか?


「大丈夫か、アヤメ。あんまりイライラしてると体に悪いぞ。更年期障害か?」


「ぶっとばすわよ、アルバ」


 まさに俺が思ってたのと同じ事をアルバが言うと、アヤメが殺気を撒き散らしながら睨む。

 ……良かった、余計な事言わなくて。


「えーと……うん、そうだった。ウェルミスの話だったな」


「そうよぉ。どうして私がご主人様と一緒に居られないのぉ?」


「理由は色々あるが……まず一つ目は、幹部の一人が消えると面倒な事になる」


 ただでさえ、バイルとナナフシが死んだのだ。そこへ、この短期間で三人目が居なくなったとなれば、奴らも本気で調査をするだろう。

 そうなれば、奴らの規模を考えると俺が関わってると当たりをつけるのも時間の問題だ。

 ならば、ウェルミスには今まで通り組織に居てもらった方が都合が良い。


占星十二宮アストロロジカル・サインの情報を流してもらうとかそういうのじゃないのか?」


「あ、それは無理よぉ」


 アルバの言葉に、ウェルミスはすぐさま否定する。


「十二師団……あ、私達幹部の総称なんだけどぉ……その中の一人に呪いに特化した奴が居るのねぇ。それで、幹部は全員ある呪いを受けてるのぉ」


「呪い?」


 アルバが首を傾げながら尋ねると、ウェルミスはコクリと頷く。


誓いの呪言スウェア・カース……ご主人様なら知ってるでしょう?」


 当然だ。何せ、ディオン達にも同じのを掛けてるからな。


「ああ、そういう事か」


 アグナ(大)も知っていたのか、合点がいったような表情を浮かべる。


「どういう事だ、アグナ。俺、呪い関係はあんま詳しくねーんだよ」


 それでいいのかアルバ。お前、仮にも魔法学園の学園長だろう。


誓いの呪言スウェア・カースは、術者とした約束を破ると死ぬ呪いだ。多分、内容は組織の情報を他者に漏らすな……とかそんな辺りか?」


「流石はご主人様ぁ。ご名答よぉ」


 俺がウェルミスに尋ねると、恍惚の表情を浮かべながら頷く。

 うん、俺が話しかける度に涎垂らすのやめてくんないかなぁ。折角のお色気ねーちゃんなのに色々台無しである。

 それでも、エロスなオーラが出てるのは流石だが。


「だから、スパイ活動をさせたいなら無理ってわけぇ。勿論、ご主人様がそう命令するなら是非やりたいんだけどもねぇ……」


「役立たずですね。その立派な胸は飾りですか?」


「ふふ、その分他で役に立てばいいのよぉ? それこそ、この胸でご主人様を喜ばせたり……ねぇ?」


「落ち着けレムレス」


 ウェルミスの言葉を聞いて、レムレスが殺気を放ちながら立ち上がったので俺は彼女を落ち着かせる。


「ウェルミスも、いちいちレムレスを挑発すんな」


「ごめんなさぁい。反応が可愛くて、つい……ね」


 俺が窘めると、ウェルミスはペロッと舌を出しながら謝る。

 わざとだったんかい。心臓に悪いからそういう悪ふざけはやめてほしいものだ……心臓ないけど。

 誓いの呪言スウェア・カースを掛けた場合、対象が契約を破って死ぬと術者が分かるようになっている。

 つまり、ウェルミスが誰かに喋ったというのが速攻でばれてしまう訳だ。

 なので、喋らせてから蘇生させたりというのもノーだ。

 一度殺してゾンビ化させて喋らせれば大丈夫かもしれないが、そうすると誓いの呪言スウェア・カースが一度死んだことでリセットされるので、どっちみちバレてしまう。

 所謂詰みという状態だ。それだけ、闇魔法がチートじみてるというのもあるがな。


「まあ、占星十二宮アストロロジカル・サインの情報を手に入れるのは無理でも、こっちの情報を向こうに流すことは可能だ」


 嘘の情報を流すことで、俺とは関わらないようにする事も出来るという訳だ。

 あとは、あえて本当の情報を流して動きをコントロールしたりな。

 要は俺が面倒事に巻き込まれなければそれでいいのである。


「ああ、なるほど。確かにそれなら敵の動きをコントロール出来るわね」


 アヤメも俺と同じ考えに至ったのか、そう納得する。


「それと、もう一つ。ウェルミスには流してほしい情報がある」


「ご主人様ぁ? さっきも言ったけど、占星十二宮アストロロジカル・サインの情報は流せないわよぉ?」


「ついに脳みそが腐ったんですか? マスター」


 酷い言われようである。


「別にそっちの情報が欲しいわけじゃないよ。占星十二宮アストロロジカル・サインの情報網を使って、他の七罪……特に憤怒の王ロード・オブ・ラースの所在地が分かれば教えてほしいんだ」


 他の七罪の行方を探すには、個人の力では限界がある。

 ならば、組織とかデカい所に頼めばいいのだ。特にウェルミスの居る組織は、裏では有名だ。

 裏からでしか手に入らない情報とかもあるだろう。

 

「それくらいなら、別に大丈夫よぉ……ご主人様のご期待に添えてみせるわぁ」


「よろしく頼む」


「はあぁん!」


 俺がウェルミスにお願いすると、彼女は突然ビクンと震えて崩れ落ちる。


「ど、どうしたウェルミス」


 もしかして、何か他の呪いでも発動したのか?

 俺がそんな心配をしていると、


「ご主人様にお願いされちゃって……私、ちょっと下着が凄い事に」


 ……心配して損したよ!

 


「それじゃ、色々迷惑かけたな」


 ウェルミスの処遇も決まり、アグナの保護も出来たのでもう用事が無くなった俺達は校門に立っていた。


「まったくだ。いつか、この借り返せよ」


 アルバは、腕組みをしながら上から目線でそう言う。

 けっ、誰がイケメンなんかに借りなんか返すかよ。アヤメは美少女なので、別だが。

 本体がババアだろうが関係ない、目の前のアヤメが美少女ならそれでいいのだ。

 ちなみに、ウェルミスはもう組織の方へと帰らせている。

 単純に、失敗しましたと報告されたらウェルミスがどうなるか分からないので、ある報告をさせるようにしている。

 その報告とは、『七罪の王セブンス・ロードの一人に邪魔された』だ。

 勿論、その内の誰がまでは不明だと答えておけと言ってある。

 真偽は別として、七罪の王セブンス・ロードが関わってるとなれば、流石にウェルミスを責めることは出来ないだろう。

 七罪の王セブンス・ロードは最強の代名詞でもある。

 流石の英雄であれ、俺達に勝つことは難しい。まあ、数を用意すれば勝機くらいはあるがな。

 後は、強欲の馬鹿みたいに相手を舐めきってる慢心野郎とかだと油断してやられることもあるだろうが。

 

「あ、ちょっと待ちなさい」


「ん?」


 俺達が立ち去ろうとすると、アヤメが声を掛けてくる。


七罪の王セブンス・ロードの行方を捜してるんでしょ? 誰かまでは分からないけど、ここからずっと西にある食道楽都市グルメディア……そこの近辺にとんでもない化物が居るって話を聞いたことがあるわ」


 グルメディア……ねぇ。聞いたことない都市だが、最近できたのだろうか。


「ありがとう。じゃあ、次の目的地はそこにしてみるよ」


 俺はアヤメに礼を告げるとその場を後にする。


「グルメディア、どういう所なんでしょうかね」


「さぁなー……後で、ディオン達に聞いてみるか」


 気づけば、とっくに約束の時間は過ぎていた。

 宿の場所は街の人から聞いているので大丈夫である。

 

「やだなぁ……遅れた事、なんて説明しよう」


 色々な事があり過ぎて、説明するのが非常に面倒だ。

 特にウェルミスの事はどうしようか。

 俺は、憂鬱な気分になりながらディオン達が待つ宿へと向かうのだった。

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