この世界で9番目ぐらいな俺、異世界人の監視役に駆り出されました /2018年4月1日発売

東雲立風/角川スニーカー文庫

プロローグ

災厄ナン数字ーズ

 それは9人の人間からなる組織である。

 ただし彼らは普通の人間ではない。

 各々が世界オンリ唯一ーワンの特殊能力を持ち、更には魔法や武術まで極めた。

 すなわち一騎当千の猛者たちなのである。

 時には国を滅ぼし、時には魔王をほふり、時には神をも殺す。

 同族である人間をも含め、全種族を畏怖させる最強の組織として確立。

 歩く災厄とまで呼ばれる彼らの前では、神によるご都合展開さえも淘汰とうたされる。


       ◆


「——結構でかいな」

「——そうですね」

「——私が突っ込む」

「——じゃあ後手に回ります」

 俺は災厄ナン数字ーズの9番目、クレス・アリシア。

 世間からは最強の氷魔法使い、『エターナル』なんて呼ばれている。

 ちなみに隣でガンガン闘気を放っているのが相棒のアウラさん。

 災厄ナン数字ーズでは5番目に位置し、変人だが頼りになる先輩だ。

「てかもっとやる気だせよクレス!」

「出してますって」

 アウラさんテンションが異常に高い。呼応するようにその紅蓮色の長髪もなびいている。それもそのはず。

 ——なにせ俺たちの目の前には今回の標的、昆虫型の巨大な魔獣がいるのだから。 

「目の前というかは目の上だけど……」

 あまりに巨体すぎて視界に入りきらない。

たかぶるなぁ」

 ただそれでも彼女が歓喜するのは戦闘バトルジャンキーだからこそ。

 戦闘態勢、アウラさんが背中に担いでいた大剣を手に構える。

「応えろ神滅バイオット!」

 一声。すると真っ赤な魔力がマグマのように溢れ出す。

 力を通した大剣もまた豪炎をまとう。

「アウラさん、服まで燃えてますよ」

「気にするな!」

「俺が気にするんです。しっかり強化魔法を使ってください」

 燃え盛る炎は身体にまで伝播でんぱ

 炎はよろいと化すが、おざなりな強化のせいで服もまた燃える。

「相変わらず倫理観や羞恥心の欠片もないですね……」

 戦えることが楽しくて仕方ない。 

(見た目は美人なんだけどなぁ。性格思考に難がありすぎる)

 そんなイカレタ先輩と組まされる俺、苦労ばかりだよ。

「次のタイミングだ!」

「了解です」

 そろそろ仕掛け時だそう。両手にはめた黒いグローブを外す、魔力を解放。

 右手甲に浮かび上がるのは9番を意味する『Ⅸ』の刻印。

 ——これは俺が災厄たる証だ。

『GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA』

 敵も警戒心をむき出しにする。

 森が騒めく、踏み荒らされた大地が悲鳴を上げる。

く——!」

 瞬間。言葉を聞いた時にはもうアウラさんの姿は消えている。

「相変わらず速いことで……!」

 強化された彼女の脚は神速を生み出す。

 生じた砂塵が頬を掠める。

「——私の炎は最強で超無敵だっ!」

 轟。

 肉と甲殻こうかくが潰れる音。そして彼女の口角が三日月を描く。

 瞬く間、相対していた魔獣の顔面に一発クレーターが誕生する。

「派手というか雑というか……」

 爆炎を纏った剣が成す技。

(……あっつ)

 しかもここまで熱が届いてくるほどの規模と出力。

「俺もそろそろやらないと——」

 相手も災害級、既に再生を始めている。まさかそのまま回復させるわけもない。

「先輩に任せてばかりじゃ後輩の名が廃れるしな」

 白銀の魔力をこの手に。描いて紡ぐは巨大な魔法陣、仕事はキッチリこなす。

「凍れ」

 一言、それだけ。上がった気温を一気に氷点下にまで持って行く。

「詠唱は要らない、か」

 氷の侵略、再生しそうなクレーター部分も含め魔物全てを氷漬けに。

 ソレはアウラさんの轟炎さえも飲み込んだ。ここに1つの氷像が完成する。

「っさすが! なら私も!」

 後は軽く砕くだけ。それで任務達成、なんだが……

 なんと氷の像の真上には真っ赤に燃える先輩の姿がある。

「おいおいおい……」

 人の身にして神殺しにまで上り詰めたその人。

 太陽を疑似的に具現化、神にしか使えないはずの奇跡を現実に起こす。

「ぶっ潰す! 太陽サンライ落下ト・ダウン!」

 あ、これやばいやつだ。あまりに威力が強すぎる。

「アウラさん! 加減をしてく——」

「はっはっはっはっはっはっは!」

「……あの様子だと何も聞いてないな……」

 正確には何も考えていない。たぶん今まで戦えなかったストレスが爆発している。

 そりゃ何十日も移動に強いられたけどさ……

「まずい——」

 光が全面に展開、夜が朝へと強制的に変えられる。

 降り注いでくる熱放射は魔法で遮るものの、辺りの草木は塵となって消えていく。

「力比べだクレス!」

「なに言ってるんですか!?」

「どっちが強くてカッコいいか勝負!」

 出たよ先輩お得意の意味不明な自己中プレー。しかしこのままでは俺も只では済まない。

「これだからアウラさんと組むのは……」

 戦闘において、アウラさんの辞書に協力とか協調性という文字はない。

「俺にまで攻撃飛んでくる時あるし、ホントに酷い話だ」

 だがボス曰く炎には氷を。つまり俺はアウラさんが暴走した時の消火役というわけ。

「——だけど、俺はあの人の相棒だから」

 これ以上愚痴っている時間も無い。

「あの勢いだと森どころか島ごと焼き尽くす気だし……」

 疑似太陽が着弾するまでほんの数秒だ。

「魔獣を倒しに来たのに先輩を相手取る。おかしな話だよ」

 魔獣の時とは違う、俺も相応のクオリティーで対処しよう。

「——出番だぞ、異能エルレブン

 魔法とは別、俺の持つ唯一オンリーワンに呼び掛ける。

 すると魔力が爆発的に膨れ上がり、俺も人の身を捨て上へと到達する。

「十分だ」

 これだけあれば何とか相殺はできるだろう。

「凍える風、凍る大地、凍り付く生命の息吹」

 響かすフレーズ、熱い世界をフリーズ。刻印煌めき高鳴る心臓。

 白銀色の魔力が嵐の如く吹き荒れる。

銀色ぎんしょくの女王が世界をせいす」

 草木は燃えることを止め、冷たき永久の眠りについていく。

 描き重なり合う陣と陣、生み出すは——

ジ・アブ氷界ソリュート

 氷の頂、俺の魔法は万物ばんぶつ万象ばんしょうを凍らす。

 俺は天に輝く太陽と対峙した。



+++++++++++++++

最強氷術使いの新たな任務は、美少女勇者を監視すること!?

「この世界で9番目ぐらいな俺、異世界人の監視役に駆り出されました 」

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