名前をよんで

森音藍斗

名前をよんで

はしがき

はしがき

「え、諒輔? 神木かみき諒輔りょうすけくん……?」

 そ、そうだけど……。

 そう肯定した途端、彼女は笑い出した。

 ……笑うって。人の好きなひと聞いて笑うって何。

「え、だって、似合わない、似合わない」

 似合わない?

「だって、諒輔くんでしょ? あの、無口無表情の理系コミュ障ガリ勉くんでしょ?」

「が、ガリ勉かなぁ……割と野球少年だけど」

「なんかオタクっぽい。野球部の癖になんであんなに陰キャなの。浮いてるよね」

 浮いてるの……か。

「笑わないし、喋らないし、よくあんなんで野球とかできるよね。ノリ悪そう。クソ真面目。暗い。年下だし。茉緒とは世界が違う」

 ……そう、なの?

「別に悪口言ってるわけじゃないけどさ、」

と彼女はこの期に及んでそう言った。

茉緒まおはさ、クラスでも人気者でしょ、可愛いでしょ、モテるでしょ、友達多いでしょ、みんなでわいわい遊ぶの好きでしょ? 諒輔くんとはね、いい? 世界が違うの」

 彼女の口は止まらない。

「茉緒が諒輔くん好きなんて言ったらクラスの男子がっかりするよー。友達みんなに引かれるよー。もっとこう、さ、二組の清水とかさ、バスケ部の近藤とかさ。分かる?」

 彼女がさりげなく挙げた例を、私は素早く脳内にメモした。

 諒輔は駄目。私が好きになっていいひとじゃない。諒輔は違う。世界が違う。私が好きになるひとじゃない。私が好きになっていいのは、清水とか、近藤とか、そういう、

「そういう、もっと、茉緒らしい人にしときなよ。諒輔くんは、無い、無い」

「別に、あんたが好きな人いないのって無理矢理訊くから、取り敢えずいちばん仲が良い男子挙げてみただけだよ」

 私は慌ててそう言った。

「それも不思議なんだけどね。いくら幼馴染みとは言え、中学生にもなって、学年も部活も違って、こんだけ性格違ったら、関係薄くなってもしょうがないと思うのに」

 まだそう言い募る彼女を、私はもうほとんど聞いていなかった。

 私らしく。

 私らしくしていなければならない。

 私らしい恋を。

 私らしい彼氏を。

 私らしく。

 私らしく――

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