エピローグ 互いの新たなる誓い

「はあ…はあ…次はどこに運べばいい」


 よく晴れた日曜日、端正な顔に汗を大量に垂らしながら卿哉が涼子に問いかける。


「それじゃこれをあっちに持っていってくれる?」


「……了解した」


 そう言うとヨロヨロとよろけながら資材を持っていく。


「しかし一体どういう風の吹き回しだ?急に現場の仕事をやらせろなんて」


「お兄様も色々と思うところがあったようです」


 心配そうに見る宗雄の横で苦笑しながら麻里沙が答える。


 先日の言葉を撤回し、彼はステージ設営の現場に立たせろと言ってきた。


 最初は現場監督の名の下に好き勝手しようとしてるのだろうと思った涼子達から猛反対をされたが、そうではなくて現場の一社員として働かせろと言われたことで戸惑いながらも彼女らはそれを受け入れた。


 果たしてどれだけ持つのか?


 と思われていたが、当初の心配をよそに彼は黙々と指示を受け入れ、へっぴり腰ながらも真面目に仕事をこなしている。


「ふうん…意外に根性あるじゃない」


 現場監督である涼子も皮肉ではなくその仕事振りに素直にそう口にする。


「あいつはなんだかんだ言っても口にしたことはやり遂げる奴ですからね」


 弟分が褒められたことが嬉しかったのか顔を綻ばせながら、返すと、


「ええ、お兄様はただの厨ニ病ではないんですのよ」


「厨ニ病?なにそれ?」


「い、いや…まあ、男なら一度はなる病気というか…理想というか…まあそんな感じのことですよ」


 そう口にする宗雄は少しだけ顔を赤らめている。 かつてそれにかかった当時の自分を思い出してるのだろう。


「ただお兄様のは些か重症でして、まだ治らなくて本当に困りますわ」


 妹の方はそういったことを理解できてはいないようで、困った顔をしている。


「…よくわからないけど、この人手不足の折には助かるわ」


「ええ、俺も助かりますよ」


「これで少しは病気も治ってくれるのなら最高ですのに」


 妹にそんな皮肉めいたことを言われている本人は資材を働きなら、


「待っていろ透火よ、身体を鍛えていずれお前に勝ってみせる…この有原卿哉はいつまでも負けているわけではないことを証明して…くっ、重い…」


 野望を呟きながら足をガクガクさせながら彼は働き続けるのだった。




 一方アスター学園の第3武道館。


 その中心部に立つ男が居た。


 有原透火である。 


 とっぷりと日が暮れたことでいま学園内には誰も居ないことは確実な時間帯。


 数時間の間、彼は立ち尽くしていた。


 やがて何かを決心するように右手首に左手を当てる。 


 そして呟く。


「マキシマムフラッシュチェンジ」と


 瞬間、それは光を放ち、数瞬の後に全身を白銀の鎧が包み込む。


 装着が完了したのを見届けた後にひとしきり全身を動かした後に彼は先日偶然見つけた唯一の武器を取り出す。


 明るい照明の下、それは彼自身が着けている鎧のように輝いていた。


「よし、やるか!」


 気合を入れなおすように一声発すると、武道館内で拳を突き出す。


 ブオンと空気を切り裂くような音が館内に響き、それを様々な型で繰り出していく。


 彼もまた決意を新たにしていた。


 早くこのスーツを使いこなせるようにならないと! 次はファントムに勝てるかどうかわからない。 


 もし負けてしまえば彼が大事に思っている弟妹達に危害があるかもしれないのだ。


 いくらダサい格好とはいえこのスーツの性能を理解しなければならないのだから。


 とはいえ…。 武道館の壁に取り付けられた鏡に写る自身を見て、


「こんな趣味の悪いスーツを考えたやつはどんな顔をしているんだろうな」


 身体の内側から猛烈な羞恥を振り払いながらそう呟いていた。

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