魅了スキルでいきなり世界最強
北山結莉/MF文庫J編集部
第一巻 神騎士を継ぐ者
第1話
プロローグ 物語の始まりというのは……
俺、
高二、夏生まれ、十六歳、帰宅部、バイト漬け。
ほらな。自己紹介することなんて、これくらいしかない。
他に特筆すべきことは、幼少期に諸事情あって両親が死んで、叔母の家で世話になっていたことくらいだろうか。
肩身の狭い思いをすることはあったが、話しても面白いことは何もない。住まわせてもらっているだけでありがたいことだったし、何か不満を抱えているわけでもなかった。なので、この場では説明を割愛する。
大事なのは、どんな環境であろうと、前向きに生きる姿勢を見失わないこと。いつも心に太陽を。俺の両親はそう願って、俺に太陽という名前をつけてくれたらしい。
実際、それは俺のポリシーだ。とはいえ、人間、生きていれば疲れることもある。あの日、俺が地球にいた最後の日もそうだった。
(ああ、疲れた……)
時刻は夜八時過ぎだったと思う。
その日の俺は特別に疲れていた。原因はバイト、以上。
というわけで、早く帰りたい。
帰って癒やされたい。趣味の時間に没頭したい。で、寝たい。
俺はそんなことを考えながら、繁華街を歩いていたんだ。
辺りには未成年は入店禁止の居酒屋なども建ち並んでいて、客引きのキャッチもいるのだが、学校の制服を着ている高校生に声をかけてくる酔狂な人はいない。うろついて補導されても面倒なので、足早に自宅を目指していたはずだ。
ちなみに、俺の数少ない趣味は漫画やライトノベルを読むことだ。年頃の男子高校生なら誰だって少しくらい読んだことはあるだろう?
俺もその例に漏れず、自分で稼いだ金で色々と読み漁っていたというわけだ。趣味に没頭している間だけは、色んな事を忘れることができたから……。
だからだろうか、俺は漫画やライトノベルで紡がれる物語の共通事項に気がついた。
それは……。
物語の始まりはいつだって唐突で、意味がわからないということ。
少なくとも俺はそう思っている。
異世界で暮らし始めた今でも、そう思っている。
第一章 気がつくと、発情した女の子達に囲まれていた件
俺は気がつくと、白銀の刀身の神々しい剣を手にして、見知らぬ祭壇に立っていた。
ほら、唐突だろう?
そして、意味がわからない。
でも、これは紛れもない事実だ。
それでいて突然のことで、何がなんだかわからない。
はず、なんだけど……。
今の俺はなぜか妙に頭が冴えていた。いや、より正確に表現するのなら、普段通りの自分と、客観的に物事を受け止めて自分のことをあたかも他人事のように考えている冷静な自分。そう、二人分の思考が並列して存在しているような感じだ。
だから、だからだ。
とりあえずは今の状況を冷静に分析してみよう。
まず、俺はほんの十数秒前まで、家に帰ろうと日本の繁華街を歩いていた。だというのに、今は見たこともない剣を手にして、石造りの荘厳な祭壇の上に立っている。
どうやらここは室内らしい。周囲はこれまた石造りの天上と壁に覆われている。祭壇の前には長方形のスペースが広がっていて、さらに奥には出入り口となる扉があった。
要約すると、ここどこですか、状態。
だが、冷静でないもう一人の俺からすれば、そんなことは些末な問題だ。
だって、考えてもみてくれ。
学校一の美少女、いや、芸能人だって顔負けのとてつもなく可愛い女の子達が、すぐ目の前にぞろぞろと立ち並んでいて、ファンタジー風のお洒落な制服だか軍服をお揃いで着込み、剣やら槍やらを手にして俺のことをじっと見つめているんだから。
露出度はちょっと、いや、けっこう高い。特に胸元の辺りが……。こほん。着ている本人達の外見年齢は十代半ばの子がメインで、少し下や上に見えそうな子もいるが、そこまで大きく年齢が違いそうな人はいないと思う。あと、女の子達の顔だちは明らかに日本人ではなかった。だが、今はそんなことはどうでもよくて……。
(え、なに? なんなの、この子達、可愛すぎるだろ!)
冷静な自分とは裏腹に、俺は心の中でそう叫んだ。
「よう、こそ……。ご機嫌、よう」
少女達は呆け顔で口を動かし、俺を歓迎する。うん、理解できるぞ。日本語だ。
でも、「ご機嫌よう」って、漫画とか小説とかの中だけで交わされる挨拶だと思っていた。現実でも本当に使う女の子がいるんだな。と、そこで――、
「……殿、方?」
女の子達は俺の出で立ちを見て、訝しそうに口を動かした。
「……どうも、初めまして。ご機嫌よう?」
不審がられないようにと、笑みを取り繕って女の子達に応じてみる。けど、「殿方」とは、またずいぶんと古風な……。
それにしても、改めて室内を見回してみるが、本当に男が一人も見当たらない。どこを見ても女の子だらけである。
でも、何だろう? 俺の顔を見ている女の子達の顔が不自然に赤くなっている気がするんだけど、気のせいだろうか。
俺は目を凝らして、女の子達の顔を一人一人しっかり確認するよう視線を動かした。女の子達も俺の顔を見つめていたので、自然と一人ずつ視線が合う。すると――、
「っ、あん!?」
「きゃっ、あっ!」
俺と視線が合った女の子達が、ゾクゾクッと身体を震わせて、次々と喘ぎ声を上げた。身体や衣類を握りしめ、ギュッとうずくまっている。
(な、なんだ、今の声?)
すごくドキッとした。という本心とは裏腹に、俺は突然に艶めかしい声を出した女の子達の姿を真顔で見つめる。
「あっ、はあ、はあ……」
「あ、熱い」
「身体が熱いよ、何これぇ?」
女の子達はとろんとした顔で、うっとりと頬を上気させていた。
これは……、発情しているようにしか見えない。いや、発情している女の子なんて実際に見たことはないんだけど、すごくえっちな顔をしている。
なんというか、気恥ずかしそうにしつつも、物欲しそうな顔で俺を見つめていて、何も知らずに戸惑いつつも、快楽に身を委ねている感じだ。吐息を荒くしながらヒクッ、ピクッとうごめいているし、正直、目のやり場にかなり困る。
「っ……」
いくら頭の中が冷静でも、心と身体はカッと熱かった。俺はごくりとつばを飲む。
いったいここはどこの桃源郷だ? どうして俺はここにいる? どうしてこの子達はこんな物欲しそうな顔で俺を見つめている? 俺がこの子達に何かしたのか? でも、こんな場所に来た覚えはない。もしかしたら俺の記憶が飛んでいるのか?
などと、疑問は矢継ぎ早に浮かんでくるが、心当たりはまったくない。
「あの、俺はどうしてこの場にいるんでしょう? できれば今どんな状況なのか、誰か教えてほしいんですが……」
俺は手っ取り早く状況を把握するべく、手を挙げて恐る恐る目の前にいる女の子達に訊いてみた。だが、女の子達は今もなお疼きを抑えるように身体を震わせていて、まともに会話をできそうには見えない。というより、むしろ悪化しているような……。
「んっ、っ、あっ、あっ……」
「と、殿方って、すごい……。こんな……」
いったい、殿方の何がすごいというのか?
(誰か、誰かまともに話ができそうな子は……)
祭壇の前で切なそうに身をくねらせている女の子達を改めて見回してみるが、みんな食い入るように俺のことを見つめているものだから、どうしても視線が合う。
「あっ、駄目っ、め、らっ、め!」
最初に俺と視線があった子はいっそう激しく、身体を跳ねさせた。
「な、なに、なに、これっ、あ、あっ!」
「んっ、やっ、やあぁ、んっ……」
他の女の子達も再び俺と視線が合うなり、さらに艶めかしい声を上げだす。頬は熟れた桃のように赤く、びくっびくっと強く痙攣している。結果――、
「あっ、っん……」
全、滅。
みんなぐにゃりと床にうずくまってしまった。衣類を乱してはあはあと吐息を荒くし、とろんとした顔になっている。
一応、確認しておくと、俺の頭の中は今も冷静だ。だが、恥ずかしそうに身悶える女の子達を前に、何も思わないわけではない。
(エロすぎるだろおお! スカート、隠して! 胸元、隠して! 見えてるから!)
と、俺は真顔で、心の中で悶絶した。そして、申し訳なく思いながらも、現状確認を行うという大義名分のもと、あられもない姿を晒している女の子達の様子を俯瞰する。
すると、完全にとろけきって地面で身をよじる大勢の女の子達以外に、片膝を突いて震える身体を必死に抑えようとしている女の子二人を発見した。
二人とも女の子達の先頭に位置し、一人は悔しそうな顔で俺を睨んでいて、もう一人はどこか怯えた顔で俺のことを見つめていて、いずれの瞳にも理性が垣間見える。
(おお!)
俺は救いを求めるように、女の子二人を見つめた。しかし――、
「っあ、あっ、あっ、ひあ!?」「んっ、んんっ……!」
女の子二人は俺と目線が重なると、きゅんと身体が疼いたかのように、四つん這いになってがくんと姿勢を崩してしまう。
「だ、大丈夫か!?」
俺は慌てて二人に駆け寄ろうとした。だが、そこで――、
「す、ごい! こんなの、もう、我慢、できないよお!」
「あの、私、貴方を見ているとどきどきしちゃって、どうすればいいんでしょうか?」
「ず、ずるい! ずるいよ、私だって!」
「あの、あの、なんか、えっと、私にえっちで、ひどいことをしてください!」
女の子達はふらふらと立ち上がり、祭壇の上に立つ俺に向かって歩きだす。
(え、えっちで、ひどいこと!?)
衣類が乱れた美少女達に物欲しそうに迫られるとか、男なら軽く理性が吹き飛びそうなシチュエーションだが、彼女達の様子は明らかに普通じゃない。男女経験皆無な俺は貞操の危機を覚え、思わず後ずさりをしてしまった。すると、そこで――、
「お、お待ちなさい! 誇り高き聖騎士団の一員でありながら、はしたなくってよ!」
女の子達を呼び止める声が、室内に響き渡った。女の子達は最後の理性を振り絞り、祭壇の前で背後を振り返る。俺もすぐに声が聞こえた方を見た。
そこには、先ほどの女の子二人がいる。声を出したのは燃えるような灼髪ロングのお嬢様然とした女の子で、悔しそうに俺を睨んでいた子だ。顔は赤い。
もう一人の子は水色のセミロングで、お淑やかで優しそうな雰囲気がある。こちらの女の子も顔は赤いが、やはりまだ怯えているように見える。
やっぱりこの二人は比較的理性を残しているんだと思う。他の女の子達はかなりとろけきった顔をしているけど、この二人にはまだ余裕がある。二人とも他の子達より少し豪華な服を着ていて、長いマントを羽織っているし、この子達の責任者なんだろうか。
「イリス、貴方はここに残りなさい」
灼髪ロングの女の子は水色セミロングの女の子に指示を出すと、俺に向かって歩きだした。その足取りは少し頼りないが、他の女の子達よりしっかりとしている。俺に迫ろうとしていた大勢の女の子達は、灼髪ロングの女の子に道を譲るべく、祭壇へと続く短い階段の前で左右へとはけた。
灼髪ロングの女の子は祭壇へと上がり、俺の少し前で立ち止まる。
「……失礼、私はアナスタシア。アナスタシア・ブリアレオス。あ、貴方のお名前を、伺っても、よろしくて?」
アナスタシアと名乗った灼髪ロングの女の子は毅然と、だが上ずった声で俺に自己紹介をした。たぶんアナスタシアが名前で、ブリアレオスが苗字だろう。
「俺は、太陽。柊太陽だ。その、みんな大丈夫か? えろ……じゃなくて、えーっと、なんか、とろけているというか、ずいぶんと気持ちよさそうな顔をしているけど」
俺は名乗り返し、アナスタシアや他の女の子達の顔を見回しながら、言葉を選んで問いかけた。「エロい顔をしている」という言葉が喉まで出かかったが、それは飲み込む。
「きっ、気持いい!? 気持ちいいなんて、そ、そのようなことはありません!」
アナスタシアは気恥ずかしそうに、泡を食って否定した。
「そ、そうか。ならいいんだ」
いやいや、あの顔は絶対に感じて……。けどまあ、初対面の女の子を相手にセクハラをする趣味はないし、アナスタシアの必死さが伝わってきたので納得しておく。
「ええ、断じて気持ちいいわけではないのです! た、ただ、貴方が殿方だから……、そ、そうよ! どうして殿方の貴方が……」
アナスタシアは喋っていて次第に興奮したのか、俺に詰め寄ってくる。しかし、近づいて俺と視線が合うや否や――、
「ひぅ、んっ!」
ビクビクッと身体をのけぞらせて、くずおれてしまった。しかし、なかなか負けん気が強いのか、挑戦的な目つきで俺を見上げてくる。
「あ。貴方、っあ、な、何者なの? ひぅん、あ、あんっ、ど、どうして、殿方の貴方が
アナスタシアは俺を問い詰めようとするが、すぐに喘ぎ声を漏らし、またしてもひくんひくんと小刻みに身体を揺らし始めた。すると、ここでようやく俺から視線を外す。しかし、それでも悔しそうに呼吸を整えながら質問を継続した。
でも、どうしよう、アナスタシアの言っていることが、ちっとも頭に入ってこない。喘ぐのを必死に我慢して、小刻みに震える姿が色っぽすぎて、それどころじゃない。
「な、なあ、やっぱ気持ちいいんじゃ……」
「で、ですから、そ、そんなことありません! っあ、あんっ、な、なによ、こ、この私がこんなはしたない疼きを覚えるなんて、認めない。認めないんだから! ふぅ、ふぅ」
と、アナスタシアは意地になって否定するが、はしたない疼きだって自分で認めているじゃん。やっぱり感じているんじゃないか。しかし、どうも腑に落ちない。
(さっきから、俺と視線が合うと、女の子が喘いでいるような……?)
そう、そうなのだ。俺は試しにアナスタシアの顔をじっと見つめようとするが、アナスタシアは「くっ、殺せ」とでも言いそうな顔で俺を直視しようとしない。だから、俺はふと、祭壇の下で状況を見守っていたイリスという女の子を見つめてみた。
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