第2章-9 初日より疲れた一日
食堂には美鈴さんと美波さんがいたので声をかける。
「久しぶりです」
「あらユーくん久しぶりね」
「ランちゃん達を連れてきたのね」
美鈴さんは既に酔っ払っている。いつも通りだ。
隣の椅子も持ってきて相席をさせてもらう。
「ランちゃん久しぶりー。リロちゃん、シオンちゃん初めまして」
美波さんは子供相手がとても上手だ。うまく懐に入る事ができる。
「それでこれからどうするの」
美鈴さんは酔ってても頭は働いてるようだ。
「とりあえず明日はバリスタと残りの金貨を渡しにいって......」
「違う違う。そんな事どうでもいいのよ。この子たちの事よ」
酔っ払いはシオンに抱きついている。
「んー、まだ決めてないんですけど。暫くは僕のお手伝いさんですかね」
正直ナル一人で事足りるが。
「その前にやる事があるでしょう」
美鈴さんはロリにも手を出しつつ俺を叱る。
その前か。普段着の準備か。
「服、ですか」と聞いたら呆れられた。
「まず1つ目、今日はどこで寝るのよ」
やっべ、忘れてた。
「次に2つ目、病院。ご飯のすぐ後にでも診てもらわないとダメよ」
ああ、考えてもなかった。
「ユーくんは沢山考えるとこがあると失敗するのね」
酔っ払いよりも考えが回らなかったとは恥ずかしい。
「えーと、客室を後で押さえます。無理なら宿になっちゃうんで、その時は2部屋取って片方に僕が泊まります」
「病院は食後すぐにでも」
なんかこっち来てからうまくいかない。
「ユウ君は何でも一人で考えようとするからそうなるのよ。私たちもいるしナルちゃんもいるの、もう少しくらい頼ってくれてもいいのよ」
迅さんも優しいの知ってるでしょ。と締めくくった。
美波さんに諭されるとなんかこう、グッと心にくるものがある。
気をつけます、と答える。はい、と返事をくれる。
「あなたたちの事ほっておいてごめんね」
「なんでも好きな物を好きなだけ注文しなさい。全部私の奢りよ!」
俺と姉が笑ってリロとシオンは困惑してる。
叱った後に気まずくならないように場を和ます。とても俺には真似ができない。
姉妹はなかなか注文しなかったが、ナルを中心に美鈴さん達がガンガン注文した。
食べきれないほどの料理がテーブルに並びパーティーのような楽しい夕飯になった。
特にリロとシオンはがっついてご飯を食べる。
父性が芽生えそうだ。
テーブルにあった大量の料理のほとんどが、3姉妹の胃袋に収まった頃、シオンがお腹が痛いと言いだした。
「え、ちょ、大丈夫なん」
シオンはお腹を抑えて丸くなっている。相当苦しそうだ。
ランがシオンの背中をさすっていると、リロもお腹が痛いと苦しみだした。リロの背中は美波さんがさする。
「ユウくん。病院いって高木さん呼んできて。急いで」
ついにシオンは吐きだした。
俺は病院まで走る。
「いらっしゃい、症状は何かな」
若いお兄さんが一人白衣で座っている。
「食堂で、子供が、腹痛いって。吐いて。来てください」
お兄さんは俺のとぎれとぎれの話を聞くと、すぐにバッグを持って走る。
「この2人を診てあげてください」
リロとシオンは、自身ゲロの上から動けないようで、まだお腹を押さえてぐったりしている。
お兄さんが来て診察を始める。
美鈴さんと美波さんは、ゲロや周りのテーブルに浄化をかけていく。
「まぁ大丈夫。飢餓状態に重いものを口に入れたから胃がびっくりしたみたい」
よかった。
リオとシオンには、ホットミルクをゆっくり飲ませて安静にさせている。今は落ち着いている。
「今日は腹痛と嘔吐だけで済んでよかったけど、これはリフィーディング症候群って言って死ぬこともある危険な状態だから」
知らなかった。血の気が引いていくのを感じる。
「3人とも極度な栄養失調だから、十分な食事を取らせること。但し、今日の夕飯みたいな無理な食事は厳禁」
「特に一番小さい子は、成長障害も発症してるから三大栄養素だけでなく、ビタミンやミネラルも気をつけて食事を管理すること」
あとで何を食べればいいかを、まとめてくれるらしい。
「他には気になる点はなかったので、感染症その他は、大丈夫そうですね」
「ありがとうございました」
「それで、3人も奴隷を買って何に使うのかなぁ」
「いやぁ、何も考えずに連れて来てしまって」
めっちゃ呆れ顔をされた。
「責任はとれよ」
はい、、、
ハプニング後、ナルに部屋を準備してもらい3姉妹を案内する。
リオンもシオンもすぐにベッドに入って寝だした。
姉もすごい眠そうだ。
長距離移動に病気?に大変な一日だっただろう。本当に申し訳ない。
「今日はごめんね。ほんと」
「いえ、とんでもありません」
「明日、俺もナルも、ここにいないから美鈴さんに頼んであるからよろしくね」
「はい」
「あと、これ」
金貨1枚と銀貨を10枚がはいった革袋を渡す。
「無一文ってのは心細いと思うから、好きに使って」
「ありがとうございます」
いつもなら2、3回は断って勧めてを繰り返すのだが、姉は眠いのか特に拒む様子を見せない。
「じゃあお休み。また2日後に」
「お休みなさいませ」
なんか今日、今日の午後は俺の失敗でいろんな人に、迷惑をかけたし、傷つけてしまった。
俺にとっても周りの人にとっても最悪な一日だ。
病院のお兄さん(この人が高木さんらしい)に食事のメモをもらって、美鈴さんに明日のことを頼み、メモを渡す。
まだ寝るには早いが、今日はもう寝ることにしよう。
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