声無き少年と魔女の話

雪野 ゆずり

声無き少年と魔女の話

「まあ、なんてみすぼらしい子なの?」

 誰?

「坊や捨てられたのかい?なら、私と来ないかい?」

 本当!?

「おや、坊やは声がないのかい。それで捨てられたのね、かわいそうに。」

 なんで、僕の事が分かるの?

「ふふふ、私は心を読む魔女。だから、あなたの声が聞こえるのよ。」

 すごい!なら、僕とおしゃべりできる?

「ほっほっほっ!こんな魔女でよければいくらでもおしゃべりしようじゃないか!!」

 やったー!

「でも、まずはご飯を食べなきゃね〜。ついておいで、私の家に行くよ。」

 え!?でも、迷惑じゃない?

「迷惑なもんか。私が育ててあげるよ。ほら、行くよ!」

 うん!ありがとう、魔女様!

「そんな事いいから。」

 大好きだよ、魔女様!!


10年後

 魔女様、町で買うものはこれだけでいいの?

「ああ、そうだよ。よろしくね。」

 分かった、行ってくるね。

「ああ、行ってらっしゃい。」


 魔女様、最近何かの研究をしてるみたい。大丈夫なのかな?

〘お、坊主!いつものかい?〙

 おじさん!こんにちは!このメモあげる!

〘はいはい、ここに書いてあるやつね。まったく、かーちゃんのためによくやるね〜。〙

 かーちゃんじゃなくて、魔女様だけどね!役に立ちたいもん!

〘はいよ!これで全部だ。〙

 ありがとう!はい、お代。

〘ありがとよ。そう言えば坊主、知ってるか?〙

 何が?

〘今日、山に住んでる魔女を退治に行くらしいぞ。魔女狩りって言うんだっけか?もう行ってる頃だろうけどよ。〙

 え?なに、それ・・・。知らない・・・。

〘まあ、せいぜい山に近付かない事だな。〙

 うん、ありがとう、おじさん。

〘またな!〙

 おじさんの言ってた事、本当なの?なら、急がなきゃ、急いで帰らなきゃ!!


「坊やは、無事に町に着いたかね?」

『ああ、着いたよ。』

「そうかい。なら、良かった。」

『魔女狩りの連中もこっちに来てるぞ。』

「だろうね。そろそろ着く頃だね。」

『逃げろ、魔女。』

「嫌だね。お前こそ逃げな。」

『断る。』

「変なオオカミだね。」

『お前に言われたくない。』

「そうかい。」

【ああ、ごめんよ、愛しい坊や。私は嘘を吐いたんだ。私は心が読めるんじゃなくて、声無き者の声が聞こえるだけなんだ。心なんて、誰にも読めるものじゃないんだよ。】

〘ここだー!〙

「来たね。」

『戦うのか?』

「そうだよ。あの子の家を守らなきゃね。」

『俺も戦おう。』

「頼んだよ。」

 愛しい坊や。お前だけは、幸せになるんだよ。


 だめだ!もう、人がいっぱいいる!魔女様、魔女様を守らなきゃ!

「おや、こんな所になんの用だい?」

 魔女様!だめ!外に出ちゃ!

〘貴様を殺しに来たのさ!〙

「そうかい。でも、簡単に死ぬわけにはいかないね〜?」

 魔女様、魔女様!!

〘な、何だこいつ!〙

「坊や!!」

 やった、剣を奪えた!!これで戦える!

「坊や!何してるんだい!?早く逃げな!!」

〘この坊主!!〙

 うわ!殴られた!!でも、負けない。

「坊や!こっちにおいで!!」

 魔女様を守らなきゃ!

「坊や、坊や!」

 うわああああああああああ!!

「坊やー!!」


「坊や、馬鹿だね。」

 そうかな?

「なんで私を庇ったんだい?こんな老いぼれ、庇わなくてもいいのに。」

 老いぼれなんかじゃないよ。魔女様は、僕を育ててくれたんだ。命の恩人だよ。

「馬鹿言うんじゃないよ。ただこき使っただけじゃない」

 そんな事ないよ。色々教えてくれた。ありがとう、魔女様。

「そんな事、言わなくていいから・・・。」

 ああ、魔女様泣かないで。もう、魔女様の事、見えないけど、今でも大好きだよ。

「そうかい、ありがとう。」

 うん。ああ、もう、眠いや・・・。

「そうかい、もう寝な。私はここにいるから。」

 うん。おやすみ・・・。

「おやすみ・・・。」

 ・・・・・・・・。

「ああ、置いて行かないでおくれ・・・、愛しい坊や・・・。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

声無き少年と魔女の話 雪野 ゆずり @yuzuri

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る