第6話 旅の目的

ゼンとカチュアはしばらく歩いた先の小さなホテルに到着した。玄関やロビーは古風だが、小奇麗でサービスもしっかりしていそうなホテルだった。受付でチェックインを済ませた二人は、それぞれのキーをもって部屋のあるフロアにあがった。


「良さそうなホテルね。お兄ちゃん、気に入ったわ。」


カチュアは過ごしやすそうなホテルのあちこちを、機嫌よさそうに眺めてまわった。


「一休みして深夜になったらでかけるぞ。町を出てずっと北にある森だ。首切り人の森っていうらしい。」


「やだなにそれこわい」


「だろう。オレがいま名づけたんだからな。ほんとの名前は子鹿の森っていうらしい」


「!!なんなの!お兄ちゃん!からかわないで!なにが首切り人の森よ!」


カチュアがまた瞬間的に怒る。ゼンは満足気にその様子を眺めてから


「だけどなカチュア。怖いからいくんだよ。何度も同じ恐怖に対峙してれば、恐怖はだんだん薄れてくる。最初は怖くて目をつぶっていたものも、よーく見て観察してみると、なにか弱いところが見つかるもんさ。


父さんが言ってたろ?観察しろって。だから怖くても、そいつから目を背けないで、じっと見つめて観察するんだ。いろんなものが見えてくる。その頃にはもう怖いなんて思わない。どう勝ってやろうかって戦略を考えられる。それは勝ったも同然だ。」


と言った。


「う・・うん」


カチュアは、兄のいつになく真面目な言葉に動揺した。なぜかドキドキしたし、父さんの言葉を口にされると、背中を押されているようで、暖かみのある自信が湧いてきた。


その後、ゼンとカチュアは、ホテルの食堂で夕食をとった。魚のムニエルと季節の野菜で作ったスープ。料理の美味しさに感激し、ゼンはワインをよく飲んだ。カチュアは最初は遠慮したが、ゼンに何回かすすめられているうちに、ワインを飲むことにした。お酒を飲まずにはもったいない料理だった。


ゼンは、旅の疲れとおいしい料理、よく熟成されたワインの助けもあって、部屋に戻ってから心地よく仮眠することにした。眠る前に、窓に腰掛けながら、旅の道程を思い出した。


ゼンとカチュアは、ある粉を追って旅をしていた。稀代の錬金術師だった父が錬成中に産み出してしまった呪われた粉。人間を生きたまま吸血鬼に変える薬。その薬の出処を追えば、父を救うことができるかもしれない。あてもない希望にすがるような旅だが、ゼンは少しづつ真相に近づいていた。その実感は確かにあった。


そしてカウチに腰掛けながら、軽い眠りについた。夢を見たがそれは本人の期待したそれとは違って、悪夢だった。正確には過去をそのまま描いた夢なのだが、悪夢であることに変わりはなかった。


眠りの中から、父の声が聞こえる。芯が強くてよくとおる声なのに、どこか後ろ暗さが後をひくような父の声。夢の中でもすぐにわかった。


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