第7話 初めての特技

 とくぎ【特技】

 みずから得意とする特別の技能。



 トキと出会って四日目。今日は朝から図書館に行き、教授達の授業を受ける。


 朝起きて朝食を摂った後に昨日買ったアクセサリーをそれぞれ付けた。ツチノコはブローチを首元のリボンに。トキはヘアゴムを飾りとして横から伸びた赤い髪に括り付けた。


「いやぁ~ツチノコに揉んでもらったおかげで羽の調子がすっごいイイです!」


 バサッバサッ、と羽を鳴らしながらトキが元気に言う。


「そうか?それならまた銭湯行く時に揉むぞ?」


「本当ですか?嬉しいです」


 本当に調子が良く、いつもと比べ結構速く飛んでいる。

 今まで長時間の飛行で「腕が・・・」と辛そうにしてたのがスピードを出して飛ぶことで緩和されたようだ。


「見えてきましたね!赤い屋根!」


 葉っぱしか見えなかったしんりんちほーに、綺麗な少しだけ中心が膨らんだ屋根。


「腕大丈夫か?」


「今日は平気です!ただ、もっと楽になるといいんですが」


「・・・申し訳ない」


「いやいや!そういう意味では!」


 ㌧㌧


 不意に、右肩を叩かれる。

 空で。


(こんなところで肩叩くなんて教授達しかいませんね・・・。もう右に手置いてあるし!左から振り向いてやりましょう・・・)


「どなたですか?」


 一応確認をしながら左から振り向く。


 ぷにっ。


 ニコリと微笑む准教授。


「ふえぇぇ!?なんで!?左から振り向いたのに!?」


「二段構えである」


「二回も同じ手口を使うなんてアホのすることです。聡明な我々は手口を少しづつ変えるのですよ」


「成功率100%である。今のところ」


 してやられたトキ。ツチノコが何があったのかと振り向いて確認する。


「教授?」


「ツチノコ、今日もみっちりきっちり教えてやるですよ」


「ただしまたお前の生態も研究させて貰うのである。」


 ツチノコが無言でパーカーのチャックをガードする。


「もうやめてください!」


 トキもフォローに入る。


「もう服は脱がせないのである」


「我々興味は無いのです」


 ツチノコはホッとした顔でチャックにやっていた手を下ろす。

 トキは疑うような目でじっと教授達を見つめる。


「・・・本当なのです」


「今日はお前の特殊能力を調べさせてもらうのである」


「とくしゅのーりょく?」


「後で話すのです。もう着きますよ」


 三つの影は、図書館の元に降り立って行った。





 中に入るや否や、


「ツチノコ、またあの部屋に行くのです」「である」


 と二人が勧める。


「あ、教授。准教授。後で個人的に相談したいことが・・・」


「わかったのである。ツチノコの授業のあと聞いてやるであるよ」


 そう言って後ろを向き、ツチノコと三人で歩きながら何かコソコソと話していた。


(准教授・・・なんでわざわざ面倒くさそうなことを・・・)


(ついでにまいた種がどうなったか確認するのである)


(なるほど・・・ワタシもついて行くですよ)


(是非・・・)


 どうやら話終わったようだ。とても嫌な予感がするが、トキは気にしないことにした。。


「わったしは~♪こないだのほーんのつっづっき~♪」


「トキ、図書館では静かにするのです」


「特にお前は」


「は~い」


 少し悲しくなったが、小説を読んで忘れよう・・・

『空を一緒に飛びたい』っと・・・





「さて、ツチノコ。自分で出来る、ヒトに出来ないことを言ってみるのです」


「トキだったら、空を飛べるとか、壊滅的な歌声が出せるとかそんなのである」


(相変わらず酷い言われようだ・・・私は好きだが)

「そうだな・・・と言っても、ヒトが何が出来ないのかよくわからん」


「じゃあ、ピット器官はありますか?」


「ぴっときかん?」


 聞き慣れない単語だ。そんなものが私に備わってるのか?


「言い方を変えるのである。例えば、こうやってカーテンを閉めて・・・」


 シャーッと教授がカーテンを閉め、日光を遮り部屋を暗くする。


「・・・我々だけをくっきりと見ることはできますか?」


「・・・ああ、それなら出来るぞ。洞窟暮らしでよくやってたな」

「コレ、ピット器官って言うのか」


 ツチノコは、視界を通常の見方と切り替え、赤外線を可視化することが出来る。本来は動物だった際に、暗い中でも狩りができるようにするための器官だったがフレンズ化の際にそれが引き継がれた。


「じゃあ、他には日常生活で使わないけど出来ることとかは?」


 カーテンを開けながら教授が質問する。


「うーん・・・他に・・・あっ」


「お?何かあるであるか?」


「危ないから少し外に・・・」


「「危ない?」」


 教授達は顔を見合わせなんなのかと疑問に思ったが考えてわかるわけでもない。そもそもツチノコなんて所詮UMAの類なので何が出来るかわかったものではない。その為に今こうしている訳だが。


 ツチノコに言われた通りに外に出てみた。部屋に直接外に出る勝手口があるので、すぐに出ることが出来る。


「では、やってみるのです」「である」


「よし・・・ほんの一瞬だからよく見ててくれよ・・・割と疲れるんだ」

「久々だけどできるか・・・?」


「つべこべ言ってないでさっさとやって見せるのです」


「・・・じゃあやるぞ」


 そういうとツチノコは左眼を瞑り、右手で作ったピースサインを右眼を挟むように顔に添えた。やがて、段々ツチノコの右眼にサンドスターの輝きが集まっていき・・・


「やるぞ!見てろ!!」


 と、言い放った瞬間


 ビュン!


 という短い音とともに、彼女の右眼から一筋の光・・・レーザーが飛び出した。


「ひっ!?」 「えっ!?」


 しかもただのレーザーではない・・・飛んでいった先の木に穴が空いている。ビームというやつだ。穴は直径2cmほどだが覗くと森の外まで貫通してるのがわかる・・・向こうの景色が見えるのだ。


「これだ・・・ヒトには出来ないだろ?」


「「・・・」」


 口をあんぐりと開けて、唖然とする教授達。


「?」


「ヒトどころかこの世にこんなことが出来るのはお前くらいである・・・」ガクブル


「なんでそんな震えてるんだ?っていうか教授細くないか?」


「怖かったのです・・・」シュッ


 コノハ教授は怖さのあまり体を細くしていた。これも動物であったころから引き継がれた特殊能力と言えるが、ツチノコのそれに比べたら大したものではない。


「いやぁ~びっくりしたのである・・・ところで、あのポーズは必要なのであるか?」


「いや、実際は要らない。けど個人的になんかやりやすいからそうしてるだけだ。」

「・・・満足か?」


「満足なのである」


「怖かったのです・・・」


 教授はまだ細いままだが、気にせず部屋に入り授業を受けることにした。





 ☆☆☆


『空を一緒に飛びたい』第3章


 空を飛びたいヒトの子は、空を飛べるトリの子に頼み、自分を持ち上げて空を飛んでもらう事にした。

 トリの子は、誤ってヒトの子を落とさぬようにロープで自分とヒトの子の体を結ぶことにした。

 ヒトの子は、それだけでは不安に思い、ロープを使って絶対に落ちないように固定する道具を作った。

 トリの子は・・・


 ☆☆☆


「なにこれ、すっごく欲しい!」


 小説を読んでいたトキは、思わず大きな声を上げた。幸い、朝なのでほかの人は図書館にいなかった。


 しかし、この小説に出てきた道具は今のトキとツチノコに必要だった。何とか再現できないものか。教授達に相談する内容が増えた。





 教室内では、算数のかけ算を勉強していた。ツチノコは理解がとても速い上、人生経験も豊富なため直感で理解出来る箇所もあり、とてもスムーズに進んでいる。


「とりあえずかけ算の仕組みはこんなところです」


「しかし、いちいち5×9を5+5+5+5+・・・なんてやってたら大変なので、ヒトは九九と言うものを編み出しました」


「これを覚えれば、1×1から9×9までのかけ算の答えが一瞬で出来るようになるのである」


 そう言って、准教授は一枚の紙を出す。


「九九一覧表である。これを家で覚えるのである。」


 その紙をツチノコに渡す。字がぎっしりと敷き詰められている。


「今日の算数は終わり」

「次はカタカナを教えてやるです」


 まだまだ授業は続く・・・





「おもしろかった・・・」


 小説を読み終えたトキが呟いた。


「でも、本も読み終わっちゃいましたし、なにしましょうか?」


 本を棚に戻した時、ふと手に当たった白い花の飾り。それを見て、トキは閃いた。


「そうだ!この花が何の花か調べましょう!」


 そして、トキは分厚い植物図鑑を棚から取り出してきた。写真とスケッチされたイラストが付いているので、見た目だけで何の花か調べることが出来る。


 ぺらぺらとページをめくっていると、ふとこの飾りにそっくりな花を見つけた。


「んと・・・多分これですけど、なんて読むんでしょう?ひゃくごう?うーん?あ、読み仮名ありますね、えっと・・・ユリ?百合ですか!」


 そのページを読み進めると色んなことがわかった。百合にも色々あり、ツチノコが買ったのはオニユリと呼ばれる種類だとか、花言葉は「純粋」「無垢」「威厳」。白い百合は「純潔」「威厳」。オニユリは「賢者」。正直自分のことはよくわからないが、ツチノコに賢者というのはぴったりだと思った。もっと百合の花について調べることにした・・・。





「やはりツチノコは覚えが速いですね」


「カタカナを教えていたつもりが小学一年生前半の漢字まで覚えてしまうとは」


 ツチノコは本当に覚えるのが速かった。一時間程の内に小学一年生が四、五ヶ月かけて勉強する内容を覚えてしまった。もう流石としか言いようがない。


「そろそろ三時間・・・今日はここまでですね、ツチノコ」


「ん、ありがとうございました」ペコリ


 そうして、三人で部屋を出る。




 部屋のすぐそこのベンチでトキが図鑑を開いていた。


「終わったですよ、トキ。おや、その本は・・・」


 植物図鑑の百合のページである。小説を読み終えてからこのページをずっと眺めていた。

 教授と准教授が顔を見合わせる。


「トキ、話を聞いてやるである、さっさと来るのである」


「ツチノコ、お前は少し待ってるのです。さっきの九九の紙でも覚えとくのです」


「わ、わかった・・・」


 教授達は二人でトキを引っ張って行く。


「わわっ、そんなことしなくても普通n」バタン。


 カチャリ。


 錠をかける音がした。取り残されたツチノコは、若干の不安を覚えつつも、九九の紙とにらめっこを始めた。





「さて、トキ。」


「もう『そんな関係じゃない』じゃ済みませんよ?」


「え?何の話ですか?私はちょっとお仕事について相談を・・・」


「すっとぼけるなです」「である」


 キッとした表情で二人が言い放った。


「お前達、二人して百合のアクセサリーつけて・・・」


「しかも百合について調べていて?」

「しかもさっき『揉んだ』ってワードが聞こえていた気が・・・」


「明らかに百合を意識しているではないですか。」

「少なくとも、トキ、お前はツチノコをそういう目で見始めましたね?」


「Noとは言わせないのである。」


 聡明な二人にまくし立てられる。


「いや・・・その・・・/////」カァァァァァ


「真っ赤っかである。」


「図星・・・なのです?」


「違いますよっ!」


 二人がニヤニヤとこっちを見てくる。

 とっても恥ずかしいが、しっかり説明しなければ・・・と、トキが話し始める。


「・・・このヘアゴムはたまたまです・・・。小説も読み終わっちゃいましたから、何の花なんだろうって調べてたんですよぉ・・・///」


「揉んだ、とは?」


「それは・・・昨日銭湯に行った時に、頭を洗ってもらうついでで・・・」


「「胸を?」」


 ワクワクという擬音が聞こえるくらい、目を輝かせている教授達。トキはまた顔を赤くしながら答える。


「胸っ!?違いますよ!// 羽の付け根です!」


「チッ」 「ケッ」


「えぇ・・・なんですかその反応・・・」


「っていうかお前、一昨日は我々の言う百合がなんだかわかってなかったのである。」


「どこでそんなイケナイ知識を身につけたのですかぁ・・・?」ニヤニヤ


「いや、それは、その~・・・。今、百合について調べてた時に・・・」


 トキは顔をますます赤くしてごにょごにょと話す。


(教授、これは自覚が無いだけである、おそらく)


(やはり准教授もそう思うですか?種はもう芽どころかつぼみくらいまできてるですよ)


 教授達は顔をますますニヤけさせてコソコソと話す。


「まぁ、からかうのはそこまでにして本題にはいるのです」


「仕事がどうとか言ってたであるな?」


「・・・はい。ツチノコと暮らす上でやはりお金が欲しいので・・・。私、どんな仕事が向いていると思いますか?参考までに」


 トキが相談したかったのはこの事だった。

 全く今まで考えてこなかったので、自分より詳しい人に意見を聞こうと思ったのだ。


「ん~。正直我々も的確なアドバイスは出来ないのです」


「そういうのはハローワークと呼ばれる場所で相談するものである。ただ、パークには無いので・・・」


「でも、耳寄りな情報ならくれてやるのです。」


 そう言って、教授は壁に貼ってある一枚のポスターを指さした。


「パークパトロールのお仕事なのです」


「パークパトロール?ですか?」


「そうなのである。パークパトロールと言うのは・・・」


 准教授の話を要約すると、

 パークパトロールとは

 ・パークを昼夜問わず異常がないかパトロールする仕事

 ・移動能力が高い(飛行できるなど)、力が強いなどすると、入隊に有利

 ・絶賛隊員募集中


「どうであるか?トキは飛べるので向いていると思うのである」


「今なら人手不足が過ぎてきっと入隊審査もゆるゆるです」


「そんな情報流していいんですか・・・」

「でも確かにいいですね?検討してみます」





「あと、もうひとつ。」


「なんです?」


「夜の誘い方とかは自分で考えるのである」


「そんなんじゃないですぅ!」


 髪だけでなく、顔も朱鷺とき色になるトキ。耐性が無さすぎるのだ。


「教授達おすすめの、『空を一緒に飛びたい』って小説あるじゃないですか?」


「読み終えたようですね?」


「あ、はいおもしろかったです」


「で?やはりそっち方向に目覚めましたか?」


「・・・第3章にトリの子とヒトの子を繋げる道具があるじゃないですか。あれ、実際に無いんですか?」


「無視は流石に無いのである。教授がしょんぼり顔である」


 教授の方を見ると、絵に描いた(´・ω・`)みたいな顔をしていた。


「・・・で、どうなんでしょう?」


「・・・ありますよ。じゃんぐるちほーにいるチンパンジーが似たようなものを作っています」

「多分、試作品なら無料で貸してくれます。今度訪ねてみると良いのです」


「なるほど・・・チンパンジーさんですか!ありがとうございます!」


「もう用は済みましたか?」


「えぇ、バッチリです!失礼します!」ガチャバタン


「ふふふ、やりましたね教授。」


「ええ、准教授。花が咲くのもひょっとしたらそう遠くはないと思います。」


「「じゅるり・・・」」





「ツチノコ?帰りましょう?」


 外に出るとツチノコは図書館中央の木を見ていた。


「どうしましたか?ツチノコ?」


「いや・・・この木、そのうち育ちすぎて天井突き破らないのかなって」


「さぁ?私たちがもう世代交代しちゃった後には、そんな事も有り得るんじゃないですか?」

「さぁ、帰りましょう?お昼ご飯です」


「そうだな。」


 二人は、図書館を出て家に向かって飛び立った。

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